【サイト更新】浅間桜十三周年

先日、新元号「令和」が発表され世間はお祭りムードですが、2019年4月4日、浅間桜はサイト開設13年目に突入します!

みなさま、毎度おつきあいの程、ありがとうございます……!

13年もよく一次/二次問わず創作を続けてこられたものだと感心しておりますが、まだまだ飽きていないので、13年目も好き勝手創作していこうと思っています。

今年も恒例の御礼記念絵を描かせていただきました。
十三周年は『隠れ姫』よりメインメンバーでまたまた花見です(笑)

別にお祝いっぽい感じであればそれで良かったのですが、前回が前回だったものですからこれは廸仁にやり返してもらわねばと。

今回、結果的に(最初はそのつもりはなかった)初めてグリザイユ塗りをしてみたのですが、思いの外自分好みの塗りになり個人的にご満悦しています。
誰か褒め(ry

それでは、絵のお持ち帰りはご自由にどうぞ。
おまけの文のお持ち帰りや転載はご遠慮ください。


浅間桜十三周年
※クリックで原寸大が開きます。

花見野点

 前置き これは、○ザエさん時空のお話である。

 

 将軍のお膝元として開発の続く江戸の町。その郊外近く、人目を忍ぶように柳生家の次女、あき姫の暮らす柳生家の別邸がある。
 屋敷の周りは漆喰塀ではなく高い板の塀でぐるりと覆われ、台に乗らなければ外から屋敷の中を覗き見るのは難しい。屋敷には炊事場、広間、旻姫の寝室、女中たちの部屋ともう一室くらいしか部屋がない。そんなこじんまりとした屋敷だった。
 その屋敷でも、庭はそこそこに広く作られており、四季折々の草花が楽しめるように植えられている。今も庭の桜が春真っ盛りであることを告げるように薄桃色の花弁と赤い葉をこれ以上ないほど枝に繁らせていた。

 

 ちょうど庭の桜が見頃だと、旻は廸仁ふみひとを通して友人のお銀や廸仁の妹のおりんを屋敷に招いた。その場に、どこで嗅ぎつけたのか、偶々様子を見に訪ねてきただけなのか、旻の異母兄である十兵衛の姿もあった。
「――なあ旻」
「なんですか、兄上」
 十兵衛は自分に差し出された濃緑の液体をじーっと見つめながら左隣に座る旻に話しかける。
「酒は?」
「今日はありません」
 旻は横目で一言そう返し、ずず……と廸仁が点ててくれたお茶を一口喉に流した。
 旻の左側ではお銀が「おりんちゃん、遠慮せんと食べたってな」と御茶請けに持ってきたお菓子をおりんに勧めている。
 旻は手にしていた茶碗を一度筵の上に置くと、懐から一枚の書状を開いて兄に見せつけた。
「本日花見をすると報せたら、父上や左門さもん又十郎またじゅうろう兄上達から十兵衛兄上が来ても絶対に飲ませるなときつーく文で言われましたので、今日は野点にしてみました」
 旻が兄上と呼んだ「左門」「又十郎」はそれぞれ友矩とものり宗冬むねふゆの通称である。
 旻の見せた紙面には達筆でその旨がすらりと記されている。屋敷で何かを催す時は、必ず本邸の父に報せるようにしているが、その返書の一枚である。
 旻としても十兵衛にはお酒を飲んで欲しくなかったので、父や兄達からの一筆は実に心強い。自分一人でたしなめても、のらりくらりとかわされて、飲まれてしまうのがオチだ。
 十兵衛はとにかく酒癖があまりよろしくない。性格が一変して鬱々と相手の心を抉るようになるか、絡み上戸かのどちらかになるのだが、どちらにしても旻の両手どころか両足を使っても余ることになるのだ。
「茶の湯なら、お酒が苦手な廸仁も大丈夫だし、兄上だって茶の湯の嗜みがあるでしょう? まあ今日は砕けた席だけど」
 でなければ、もてなす側である席主の旻が、相客に混ざってなどいない。 「そりゃあ、あるけどな……」
 十兵衛はいまだ不服そうに椀の中の抹茶を見つめている。
 茶の湯は将軍様の小姓として城に上がっていた時期に一通りの作法は覚えた。彼もそこに不服があるわけではないのだ。花見酒を期待していたので、少し肩を落とすくらいは許してほしい。
 それよりもだ。先程旻が見せてくれた文の筆跡が、間違いなく父・宗矩むねのりの字だということは彼にもすぐにわかったが、名前の部分には弟たちの名前が彼を威圧するように記されていた。
 なんなんだ、江戸柳生本邸のこの結託力は。そんなにまでして俺に酒を飲むなと言うのか。これでも酒を口にする時と場所は弁えているつもりだというのに、これが不服でなければなんだというのだ。
「兄上はお酒目当てだったかもしれないけど、前回廸仁にしたことを思い出して今回は反省してください」
 前回――と言われて十兵衛は首を捻る。何かしたのだったか。こと剣術以外のこととなると、すぽんと抜けることがたまにあり、今回もどうも記憶にない。
 十兵衛はさっさと思い出すのを諦めると、目の前に座り、自分の分の茶を点てている廸仁に声をかけた。
「なあ廸仁、前回お前になにかしたんだったか?」
「はい?」
 意気揚々と亭主の役割を果たしていた廸仁が、空の柄杓を手にしたまま動きを止めた。
 彼も武士の端くれ。柳生家で雇ってもらっているおかげもあるが、茶の道は嗜んでいる。今日は形式上の亭主を席主の旻に頼まれ、こうしてお茶を皆に振舞っている。
「前回の花見の話ですか? 十兵衛様」
 と、聞かれても廸仁もその日のことはほとんど記憶になく、むしろ途切れている。「なにかあったか」と聞かれても答えようがない。  その事を正直に言って伝えると、なぜか旻に半眼で睨まれた。
「だとよ、旻」
「なにかあったのか? 旻」
「……廸仁、実害被ってるのに忘れないでよ……」
 前回、彼は酔っ払った十兵衛に無理やり酒を飲まされて記憶が飛んでいたのだ。

 

「お兄様、カッコいい……」
 惚れ惚れと呟いたのは、廸仁の妹のおりんだ。お銀に勧められた鶉餅うずらもちは、半分かじられたあと掌の上で意識の彼方遠くに忘れさられている。
 正式でないとはいえ、相客として茶の席に参加するのが初めてだったおりんは、茶を点てる兄の姿を見るのも、これまた当然初めてだった。
 うっとりと廸仁を見つめるおりんを微笑ましく眺めながら、お銀は「ほんになぁ」と口元をそっと袖で隠し、口端をそっと持ち上げる。
「お茶を点ててるお兄さん、かっこええなぁ」
「そうでしょう、お銀さん!」
 大好きな兄を褒められたおりんは、嬉しさのあまりつい大きな声を出してしまうが、すぐにはっとしておろおろする。
「ほ、惚れないでくださいね、お銀さん」
 まるで自分の想い人が取られのを怯えるかのような反応のおりんに、お銀は口元を隠しながら肩を揺らす。
「ややわぁ、おりんちゃん。たしかに廸仁はかっこええなーと思うけど、うちが将来一緒になるんは、上方か江戸の商家はんよぉ」
 武家に嫁に行く気はないと告げると、おりんは「そうですよね」と、ほっと胸をなでおろす。そして、両手の人差し指でもじもじしながら「でも」と小さい声で言葉を続ける。
「お銀さんが本当にお義姉さんになってくださったら、それはそれで嬉しいですけれど」
「旻ちゃんは?」
 恋する乙女のようだったおりんの表情は一変、眦を釣り上げてそっぽを向きつつ言葉を吐き捨てる。
「あんな粗野なお方、御免被りますわ。お兄様はなぜいつまでもあのような方と」
「今日招待してくれたんは、旻ちゃんなんやけどねえ」
 言葉半ばにお銀に指摘され、おりんは「ぐぬ」と口を閉ざした。
 おりんにとってお銀は、物腰柔らかく、たおやかで、一緒にいるだけで心和やかになる包容力の塊のような、とても素敵な女性だと思っている。彼女の理想とする女性像で、憧れなのだ。
 その一方で、旻ときたらどうだ。仮にも武家の姫ともあろう方が、男装して腰に刀まで差し、汗水垂らして男と一緒に剣の稽古などをしているときた。女性同士で薙刀稽古ではなく、男がやる剣術なのだ。屋内で楚々と佇むお銀とは全く正反対ではないか!
 その女性らしくない立ち居振る舞いのどこを気に入って、兄がずっと彼女に文句の一つもなく付き従っているのか、全くもって甚だ疑問だ。
 ――だが。本日、兄の素敵な姿を見ることができたのは、確かに彼女のおかげである。
「それは、感謝していますわ……」
 おりんにしては、珍しくとても素直に旻に対するお礼を口にした。小声ではあったが。
「そやなぁ。やて、旻ちゃん」
 おりんが「え」とお銀の向こうを見ると、先程まで向こう側の十兵衛と話をしていた旻が、いつの間にかこちらを向いていた。
「ええと、喜んでくれたなら良かったけど」
「ぬ、盗み聞きなんて最低でしてよ⁉︎」
「ええー? おりんちゃんが大きい声であたしの悪口言ってたんじゃない」
 それを言われると否定できない。せめて一矢報いたいおりんは、朱に染まる頬を膨らませて旻を睨みつけた。
「あ、旻ちゃんももっと食べてなぁ」
「ありがとう、お銀。お銀が教えてくれた菓子屋の餅美味しんだよね」
 そんなおりんには気付かず、旻はお銀にお礼を言いながら懐紙に一口大の鶉餅を取っている。
「廸仁も食べるでしょ。とってあげるよ」
「ちょっと、なんなんですの! せめてそのかぶいた格好だけはどうにかしたらどうですの! それと、お兄様の分は私が取りますわ、旻!」
 残していた半分を一口で食べてしまうと、おりんは旻の手から廸仁の分の懐紙を奪い取る。
 せっせとお菓子を選んで懐紙に移すおりんに、いつも通りだな、と旻は苦笑する。
「おりんちゃんが廸仁好みのお菓子選んでくれるって」
「悪いな、おりん。ありがとう」
 自分の分のお茶を点て終え、茶釜の火加減を見ていた廸仁はおりんの方を向いてお礼を言う。
 おりんの顔が満面の笑みに変わった。

 

 旻も女の友人達の輪に入っていき、隣の喧噪が大きくなる。妹がいるから、廸仁もその内そちらの輪に入るだろう。
 十兵衛はその輪の外で相変わらず抹茶の濃い緑とじっと対峙していた。ふわりと柔らかく通り過ぎる風。なんの偶然か、風にさらわれた桜花弁が一枚、ひらりと茶碗の中に舞い降りた。
 その様子を見ていた十兵衛は、ふっ、と小さく息を吐く。
 これも風流か、と胸中で呟きながら、ようやく抹茶に口をつけた。

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