My Poke My Story〜 DPPt編 capter1 〜

『結局、捜索隊の努力もむなしく、珍しい色違いの赤いギャラドスには、一目目撃することさえできなかったのでありました……』
 流れていたテレビ番組がエンディングを迎える。
 テレビの前でその番組を見ていた黄色いくせっ毛な髪の少年は、ぐぐぐっ!、と拳を握りしめて目を輝かせた。
「すっげー!! 赤いギャラドスカッケー!!!」
 今のテレビの興奮のあまり、立ち上がって天井を仰いでいる――が、きっと見えているのははるか遠くの湖の光景だろう。

 エンディングが終わったテレビをプツン、と切り、一緒に見ていた長い黒髪の少女がほんわかした笑顔で 少年を見上げた。
「『特番・赤いギャラドスを追え!』、おもしろかったね、チナちゃん♪」
「ああ! ――ていうか、いい加減“ちゃん”呼びはよせよ、ミウ」
 少年は腰に手を当て、嫌そうに隣に座ってる少女・ミウを見る。
 ミウはキョトンとした。
「なんで? かわいいよ?」
「そーゆう問題じゃなくてだな」
 ミウの幼馴染みの少年・チナは一つ溜め息をつき、ぐぁばっ! とどこか一点を見る。
「とりあえずそれは後にして、ミウ! 湖行くぞ! 湖!!」
「湖? なんで?」
「お前も見てただろ! 赤いギャラドス! 幸い近くに湖もある! 大人は何にもいない、って言うけど、あの湖にはすんごく珍しいポケモンもいるって話だ!」
「うん」
 ミウは“珍しいポケモン”に対して、こくん、と頷く。
「だからさ! オレ達も赤いギャラドス捜索隊みたいに湖の調査をして、珍しいポケモンを見つけるんだ!!」
 バーンッ! ――とかっこいい効果音の一つも欲しいくらい、チナはキレイにポーズを決めている。
 チナはミウが何か言う前に、どんどん話を進めていく。
「そうだな。いろいろ書き留められるように冒険ノートも持ってこう。よし! 早速行くぞ! 急いで来いよ、ミウ! 遅れたら罰金百万円だからな!!」
「えええ!! ま、待ってよ! チナちゃん!!」
 ミウは慌てて防寒具を手に取ると、チナの後を追いながらそれらを身に付けていく。
「あ、お邪魔しました!」
 一階に下りてチナの母に挨拶すると、玄関戸を開けて外に出る。すでにチナの姿はない。
「チナちゃん速いよ〜、バカ〜」
 半べそをかきながら、ミウは町の入り口に向かう。その横に、付き添うような小柄な影が現れた。
「ユキメちゃん!」
 ミウが気づき、嬉しそうに名前を呼ぶ。
 ユキワラシのユキメが、ミウに合わせて隣を走っていた。
「チナちゃんのママについてくように言われたんだね。ありがとう♪」
 ユキメはチナの家のポケモンで、よく一緒に遊ぶ仲だ。
 途中で何人かの人とすれ違う。
「またチナと遊ぶのか? ミウ」「本当、二人は仲いいな〜」「湖に行くのか? 草むらには入るなよ」
 それぞれに「はい」と簡単な返事を返して走っていくと、町の入り口が見えた。
 チナがこっちを見て佇んでいる。
「チナちゃん!」
「遅いぞ、ミウ!」
「チナちゃんが速いんだよ〜」
 ねえ、とユキメに同意を求める。ユキメも頷いた。
「つかなんでユキメまでいるんだ?」
「ついてきてくれたんだよ♪ わたし達だけじゃ心配だから」
「おふくろは心配しすぎなんだよ……。って、立ち話してる場合じゃない! よし行くぞ! 湖へ!!」
 町の入り口から左右に別れている道を左に折れて逸れずにずっと歩いていくと、看板が立っている。
 そこを通り過ぎれば、二人の目的地・シンジ湖はすぐそこだ。
 シンジ湖についたチナは、突然足を止めた。
「あれ、誰かいる」
「ふへ?」
 自分より背の高いチナの後ろを歩いていたミウは、体をずらしてチナの前を見る。
 白衣を着た初老の男の人と、グレーの服を着た少年が、湖のほとりに立っている木の下にいた。木の左手には、広大な湖が広がっている。
「ホントだ。誰だろ?」
「さあ? 見たことねぇ」
「わたしも」
 湖の入り口で言葉を交わしていると、話題の二人がこっちに歩いてきた。
「失礼。通してもらうよ」
 初老の男の方に言われて、チナとミウは初めて自分達が入り口を塞いでいることに気づき、慌ててどいた。
「はわわ!」
「あ、すみません」
 初老の男の人の後ろを少年がついて歩く。
「ちょっとごめんね」
 二人はミウとチナの横を通り、湖から去っていった。
「なんだったんだ?」
 特に少年の方は自分達と対して歳は変わらないように見えた。
「あ、チナちゃん。あれ!」
 チナの横でミウが声を上げる。見ると木の方を指差していた。
 チナも見てみると――
「…………トランク?」
 木の下にトランクが一つ置かれていた。
「だよね。さっきの人達の忘れ物かな?」
「よし!」
 チナが何かを決意したような声を出した。
「チナちゃん?」
「あそこまで行ってみようぜ、ミウ!」
「ぅえええ!? だだだダメだよ、チナちゃん! 草むらは入っちゃダメって……!」
 カバンは草むらの中に置いてある。草むらは野生のポケモンがいつ飛び出してきてもおかしくない、一匹もポケモンを持っていない人間には非常に危険な場所だ。
「ダイジョブだって。ユキメがいるだろ! それに忘れ物なら届けてやんないと。てことで行くぞ、ミウ」
 ミウが止める間もなく、チナはトランクに向かって走り始めている。
「ふええ〜」
 仕方ない、ミウもチナに続く。
「チナちゃん。早く草むら出よ〜よ〜」
 トランクの所にやって来ると、ミウはチナにすがるように寄り添った。
「だぁから、ダイジョブだって言ってるだろ。あんまり引っ付くなよ。トランク持てないだろ」
 そう言い返しながら、チナはトランクの取っ手を持って持ち上げようとした。
「うわわ!?」
 思った以上の重さに、持ち上げたチナは思わずよろめき、寄り添っていたミウも急激にかかったチナの重さにバランスを崩した。
「うきゃぅっ!」
 ドンッ――!!
 チナがトランクを放り出して地に尻もちをつき、ミウが後ろの木にぶつかった。

  バサバサバサッ――!

 一瞬にして羽音がその場の全ての音を満たす。
 ミウとチナが空を見る。
「ひあ……」
「ムックルの群れ!?」
 無数のムックルは二人に敵意をむき出しにしている。
「やばい。襲ってくるぞ!」
「へええ!?」
 チナがユキメの名を呼び、ポケモンを持っていないミウは、とっさにチナの後ろに移動した。
「ユキメ“こごえるかぜ”!」
 ユキメが空に向かって冷気を吐き出す。
 数匹が羽を凍らされたが、それでもムックルはまだまだいる。
「チナちゃん、逃げようよ。ユキメちゃん一匹に対して数が多すぎるよ」
「わかってるよ。でもこの数じゃ逃げる前に捕まるぞ!」
「そんなぁ……」
 ユキメに指示を出すチナの後ろでおろおろしていたミウは、ふとトランクに目がいった。
 さっきチナが放り出した拍子でか、開いている。その中に赤いものを見つけた。
(あれ、モンスターボール!)
 気づいた時にはトランクに駆け寄っていた。
「!? ミウ!」
 チナが遅れて気づくが、すぐにムックルの応戦に戻る。
 ボールの中身の有無を確認すると、ミウは三つある中の一つを適当に手に取った。
「今だけ言うこと聞いてくれる? 持ち主さんごめんなさい、勝手に使います!」
 ボールを放つ。
 ボンッ!
 中から出てきたのはサルのようなポケモンだった。
「お願いポケモンさん、ムックルを追い払って!」
 ポケモン――ヒコザルはミウを一回見上げると、思いっきり息を吸い込んだ。

 ゴオ――ッ!

 火柱が空を貫いた。火の勢いに驚いたムックル達が、散り散りになって逃げていく。
 最後には一匹もいなくなり、ぽかん、としたミウとチナとユキメが残された。
「……は?」
「…………わあ。強いんだね、キミ!」
 ミウはぎゅっ、と感激のあまり、ヒコザルを抱き締める。
「確かにスゴかったけど……よかったのか? 勝手に使っちゃって」
「わたしもチナちゃんもユキメちゃんも怪我しなかったんだもん。大丈夫だよ」
 にばっ、と笑うミウに、チナはそういう問題かなー、と後ろ頭を掻いた。
「ああああああああああ!!!」
 大声が響いたのはちょうどその時だった。
 二人と一匹が見ると、先程去っていった少年が、湖の入り口に立って、こっちを見ていた。
「ちょちょちょ、ちょっと。もしかしてヒコザルを使っちゃったの? 君!」
 少年はずかずかと切羽詰まった顔で、ミウに近寄っていく。
 対するミウは、少年を見て目をパチクリとさせ。
「キミ、ヒコザルって言うんだね。助けてくれてありがとう♪」
 思いっきり少年を無視してヒコザルに話しかけた。
「……ボクの質問聞いてる?」
「聞いてるよ。ヒコザルがね、わたし達のこと助けてくれたんだよ」
「だから……!」
 少年が更に言い募ろうとすると、ぽんっ、と肩を叩かれた。
「オレから説明するよ」
 チナが呆れ半分諦め半分な顔で少年の肩に手を乗せていた。
 少年は体ごとチナに向き直る。
「本当は、カバンを届けようと思ってたんだ。ていうかあのカバン何入ってるんだ? かなり重かったんだけど。まあ、それでよろけた拍子に木にぶつかっちゃって、木にいたムックルの群れに襲われたんだ。こっちはユキワラシ一匹で、アイツはユキワラシだけじゃ大変だって思ったんだろうな。トランクの中にボールがあるのを見つけて、ムックルを追い払うのに一個開いちゃったんだ」
 チナの説明を聞いた少年は、困ったような顔をして、ミウの方を見る。
「う〜ん。どうしよう……。…………たく、メンドウごと作りやがって…………」
「!?」
 間近にいたチナにしか聞こえないような声量で、今とんでもない台詞が聞こえたような。
「ねえキミ。今から一緒に博士の所に来てくれないかな。そのポケモン、ナナカマド博士のポケモンなんだ」
(……オレの聞き間違い、だよな?)
 今のミウに対する言動を見ていると、自分の空耳だったと思う方が納得がいく。
「うん。いいよ。わたしが勝手に使っちゃったから、謝らなきゃ」
「よかった。じゃあボクについてきて」
 少年はほっとしたように胸を撫で下ろし、トランクを軽々と持って二人の前を歩き始めた。

「博士!」
「カナメ。遅かったな」
 初老の男・ナナカマド博士は、少年の姿を認め、名を呼んだ。
 少年・カナメはナナカマド博士に近寄った。
「うん? 後ろの二人は誰だ?」
 カナメの後ろにいるミウとチナの姿を認め、ナナカマド博士は片眉を上げる。
「はい。実は…………」
 カナメが簡単に今までの経緯を話す。
 話を聞き終えたナナカマド博士は、ふむう、と思案するように目を閉じた。
「か、勝手にポケモンを使っちゃってごめんなさい!!」
「お、オレからもすみませんでした!」
 ミウとチナが頭を下げる。ナナカマド博士が目蓋を上げた。
「君、少しヒコザルを見せてくれ」
「は、はい」
 ミウは言われた通りに抱いていたヒコザルを手渡そうと前に出す。
 が、ナナカマド博士は受け取ろうとせずにそのままヒコザルを観察した。
「君の名前は?」
「ミウです」
 続いてナナカマド博士がチナの方も見たので、慌てて名前を名乗った。
「オレはチナです」
「ミウに、チナか。私はナナカマド。マサゴタウンの研究所でポケモンの研究をしている。何かあったらその研究所まで来なさい」
 ナナカマド博士はそれだけ言うと、ヒコザルを返してもらうことなくマサゴタウンの方に歩き出した。
「は、博士!? あ、じゃあ待たね」
 カナメは慌てて二人に手を振ると、急いでトランクを持って博士の後を追いかけていった。
 ぽつん、と取り残された二人は、博士達が去っていった方向から、ヒコザルに目を移す。
「……お咎めなし?」
「この子、わたしがもらっていいってこと、かな?」
「じゃ、ないか?」
「そっか♪ これからよろしくね、ヒコザルちゃん。――それにしても」
 ミウはもう一度博士達が去っていった方向を見る。
「あの子、博士の助手なのかな」
「あの子、って、グレーの服着てた?」
 確か博士が“カナメ”と呼んでいた。
「うん、その子」
「さあ? でも確かに博士のお手伝いをしてるって感じはあったな」
「すごいな〜。わたし達と同じくらいに見えるのに」
 ミウの目が輝いている。
「きっとわたし達と違って、いろんなこと知ってるんだろうね」
「そうだろうな。さて……」
 チナが空を見上げる。
 日がだいぶ傾いている。
「なんかいろいろあって疲れたし、今日はもう帰るか」
 同じく空を見上げたミウも頷いた。
「うん。そうだね、チナちゃん」
 そうしてその日はお開きになり、その夜のミウの家では。
「そう。ナナカマド博士にポケモンを」
「うん。ヒコザルっていうんだよ。ね♪」
 母親に答えると、ミウは肩に乗っているヒコザルに笑いかける。ヒコザルも同じようにきゃっきゃっ、と笑い返した。
「あら、もうだいぶなついて」
 母親は食器を洗う手を休めて、ミウとしっかり体を向き合わせた。
「――ミウ。明日ナナカマド博士にお礼を言いに行ってきなさい。こんな素敵なポケモンをもらったんだもの」
「でも、くさむら……」
 今までの言いつけからか、ためらうミウに、母が小さく笑いかける。
「あなたにはもうポケモンがいるでしょう? くさむらに入っても大丈夫よ」
 母親の言葉に、ミウの顔が輝いた。
「じゃあ明日行ってくる! もう一回会ってね、話したい子がいるんだ!」
 嬉しそうに話す娘の姿に、ミウの母のアヤコも嬉しそうに微笑んだ。

 もう一度会って、話したい。きっと、自分が知らないことをいっぱい、いっぱい! 知っているあの男の子と。
 会って、話して、そして最後はお友達になれればいいと、そう思う。
 新しい景色を夢見ながら、ミウは布団の中で眠りについた。

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