朔誕 2020

前編:紗夜誕 2020
 
 紗夜ははじめに対して悪戯っぽく微笑んだ。
「それじゃあサク、まだ先だけれど、誕生日に欲しい物を聞かせてもらおうかしら」
 
 現在は五月。朔の誕生日は十一月。まだ随分と先の話だ。当然、今日聞かれるとは思っていなかった朔は何も考えていなかった。
「遅くても一ヶ月前……十月末までに教えてくれたら考えるわ。それ以降はまたおいしそうな餡菓子でも探してみるから」
 紗夜は悩み始めた朔に一方的に宣言すると、宿題を片付けに戻ってしまう。
 朔もその日は頭の片隅でぼんやりと考えながらも、宿題に戻ることにした。
 
 悪戯っぽいとはいえ、久しぶりに紗夜の笑った顔を見たと朔が気づいたのは、家に帰ってからだった。


 それから早四ヶ月。学校は夏休みを終えて二学期が始まっていた。
 紗夜に言われた期限は刻々と迫っているが、朔はまだ『誕生日に欲しい物』を決められていない。
 欲しい物自体はある。漫画や、文房具や、おもちゃなど。でもそれを「紗夜から貰いたいのか」と考えると、そうではないのだ。
 そんな感じでずーっと頭の中でぐるぐると考えてきたが、今のところ「これだ!」というのが思いついていない。
「なあ、誕生日になに欲しい? って聞かれたら、なんて答えるのがベストだと思う?」
 学校の教室。授業合間の休み時間。前の席に座っている友人に聞いてみたら、目を丸くした後に、真剣な顔をされた。
桜江さくらえ……お前、彼女できたのか?」
 違う方向の答えが返って来た。朔は正直に否定する。
「いんやー。聞いて来たのは幼馴染」
「幼馴染の彼女とかお前のスペックはどうなってやがる、羨ましい」
「いや、だから彼女じゃないって。本当にただの幼馴染」
 そこに話を聞きつけた別の友人が「それは聞き捨てならないなぁ」と、近くの椅子を引きながら会話に混ざってきた。
「ただの幼馴染が『今年は誕生日に何が欲しい? 準備もあるんだから早めに言ってよね、桜江くん(裏声)』とか言って来たのか? 充分ゲーム漫画の主人公じゃないか。分けてくれ」
「何をだよ」
 発言の意味がわからず、朔はつい吹き出しながらツッコミを入れる。それから友人に言われたことを脳内で反芻した。
「うーん、大体そんな感じだけど、言われたのは、俺が誕生日にプレゼントをあげたからで。その流れ」
 これにショックを受けたのは、最初に声をかけた友人である。
「毎年プレゼントを贈り合う幼馴染……だと」
 声も固ければ、そのまま動きも固まった。朔はその反応に対して、呆れ気味に補足する。
「言っとくけど、基本的にお菓子の渡し合いしかしてないし、去年までは親同伴だからな」
「かー、羨まっ! 俺もそんな彼女欲しー」
 何を言ってもそうなるらしい。思春期だ。
 ここで「でもさぁ」と、後から混ざって来た友人が、声量を絞って顔を寄せた。
「サクの言ってる幼馴染って、もしかして神宮寺じんぐうじ紗夜?」
 朔はそうだと肯定した。途端、二人の顔が微妙な表情かおになる。
「なぜだろう。一気に羨ましさが引いた」
「こう言っちゃなんだけど、よく付き合ってられるよな。彼女変わってるじゃん」
 朔は二人の反応に、心底不思議そうに首を傾げる。
「昔から見てるけど、俺から見たら不器用なだけで、だいぶわかりやすいし。別に普通なんだけどなぁ」
 彼から見た紗夜は、合理的に見える不器用な人付き合いをしている人だ。
 事実、自分の手を煩わせたくないのはあるだろう。えない人間と一緒だと彼女自身が不利益を被る事も多いということは、彼も聞いて知っている。
 また同時に、同じ理由で視えない人間を巻き込まないようにしているのも事実だと、彼は気づいているのだ。
 要するに、彼女なりにちゃんと、棲み分けをしようとしていると、彼は思う訳だ。
 朔は常々そう感じているので、紗夜の事を優しい人間だと思っている。
「まあ、それは置いておいて。誕生日プレゼントの返事だっけ? サクは欲しい物ないわけ?」
「正直、紗夜から貰えるならなんでもいいなーって思うけど、その返事はアウトだろ? じゃあ具体的に何かってなったら……これってのが思いつかないんだよなー」
 朔は相談した理由を改めて口にすると、ため息をつく。
 すると聞いてきた彼は、もう一人の思春期男子に質問をする。
「よし、お前。彼女できたら何して欲しい」
「膝枕! あとはやっぱり放課後どこか食べに寄り道するとか、定番デートスポットに行ってみるとか、自宅デートとか色々してみたいじゃん」
「わかる! とまあ、こーゆーのでもいいんじゃないか?」
 物にこだわる必要はないんじゃないかと諭され、朔は目から鱗が落ちた気分になる。
「なるほど、自分がしたい事とか、紗夜にして欲しい事とか……」
 それなら、すぐに思いついた。朔の顔が、困り顔から笑顔に変わる。
「二人とも、サンキューな!」
「お礼は焼きそばパンで」
「そ、そこは飲み物にしてくれ」
「冗談だよ」
 お互いにお互いの反応に吹き出して、三人は笑い出した。
 
 
 
 放課後。さっそく朔は帰り道で紗夜にその話を切り出した。話を聞いた紗夜は、珍しく驚いた顔をした。と思ったら、すぐに困惑した顔になる。
「それ本気で言ってる……?」
 紗夜が朔に言われたのは「紗夜がしている修練とやらを体験したい」だった。
 紗夜がやっている修練というのは、自分の身を護るものであり、修験道から始まり、神道、武道の内容を織り交ぜた精神・肉体を鍛えるものである。彼女自身が昔から妖怪の類に絡まれやすい体質だったため、必要だと考えて進んで行っているものだ。
 が、特に必要のないかれが、自分がこなしているメニューをやりたいなんて正気か? と紗夜は率直に思ってしまったのだ。
「本気で言ってみたんだけど、やっぱダメだったか?」
 朔は朔で、誕生日に何をさせてもらいたいか、で考えたら、真っ先に「紗夜がしている苦労を知りたい」が思いついたのだ。けれど怪異事件に関わるのは危ないし、迷惑をかけるのは本望ではない。
 なら、紗夜が中学に上がってから本格的に始めたという修練とやらを、体験させてもらうのはどうだろうかと、朔は考えたのである。修行という単語に「カッコイイ」と憧れる下心も否定はできないが。
 理由まで聞いて、紗夜はしばらく黙り込んで考え込む。
 紗夜としては彼の希望なので、できる事なら叶えてあげたい。しかし、慣れてない人間に同じことをさせるのは、全てとは言わなくとも危険だ。時季も悪い。
 なにより日取りも内容も、自分の一存では何も決められなかった。
「とりあえず、考えてみる。考えて、できそうでも無理でも経過を伝えるわ」
「そ、そうか! ありがとうな、紗夜」
 朔の明るい笑顔を見ながら、紗夜はまずは祖父に相談しようと心に決めた。
 
 その日の修練が全て終わった後。紗夜は昼間の話を祖父に相談した。話を聞いた祖父は、自分の監督付きであればしてもいいリストを、指折り数え上げてくれた。
 その中で項目を三つまで絞るが、初心者がやることを考慮すると、もう少し気を利かせてあげたいと、紗夜は考える。修練など、体験といえど決して楽しいものではないはずなのだ。だから、せめて最後くらいは楽しい思い出にしてあげようと思うのが、誕生日プレゼントというものではないのだろうか。
 夕食をとった後も自室で一人プランを考えていた紗夜は、ある事を思い出して電話をかけた。
『はーい。どうかしたの? 紗夜ちゃん』
 コール音が切れると、電話口から若い女性の声が聞こえてきた。
 かけた先は、度々お世話になっている紗夜や祖父の共通の知り合いの女性だ。普段はどこを歩いているか——最悪、山奥とかを歩いているらしい人だが——よかった、電波の入る場所にいた。
 紗夜は各々然々かくかくしかじかと事情を説明し、ある要求をする。電話越しの声はひどく渋っていたが、
「貸しがありましたよね」
 と告げると、諦めて承諾してくれた。
「他人に教えるのが嫌でしたら、ああいう事が起きないように、ちゃんと監督してください。保護者を名乗るのでしたら尚更」
『それには反論の余地がないです……。紗夜ちゃんのいぢわるぅ』
 後日、場所を教えに寄ると告げられると、電話は切れた。
 後は関係者へのお願いと日取りの調整を済ませれば、彼のご希望に添えそうだ。
 紗夜はノートに決定事項と必要な事をまとめると、部屋の電気を消した。
 
 
 
 数日後。紗夜から「なんとかなりそう」だと返事を貰った朔は、十一月一日、その月最初の土曜日を楽しみに待っていた。
 彼の誕生日は十一月末日だが、月末になる程いろいろと不都合があるそうで、この日でいいかと打診があった。
 朔も最初から無理を言っている自覚はあったので、その日で承諾したのだった。
 
 その日は朝の八時に紗夜の家である、氣仙宮けせんみや神社にやってきた。
 母親に送迎して貰ったが、なぜか母は運転席でずっとニヤニヤとしており、別れ際には「根を上げずに頑張ってね〜」と含み笑いをして見送ってくれた。
 まるでこの後やることを知っているみたいだ。朔はそんな母親の反応が不思議で、首を傾げながら鳥居をくぐった。少し進むと、手水舎で紗夜が空を眺めながら朔のことを待っていた。
 こちらに気づくと近づいてくる。
「おはよう。向こうで漢己あやきさんが待ってる」
「おはよう、紗夜。おじいさんが?」
「今日の引率係」
 話しながら紗夜に連れられていくと、拝殿の前に白小袖に浅葱袴の、白髪の老人がいた。
「紗夜のお爺さん、おはようござ」
 朔が挨拶をしようとすると、紗夜の祖父・漢己は、瞑目していた目をカッと大きく見開いた。
 
「ワシのことはアヤキと名前で呼べぇいっ!」
 
 ビリビリと肌が震える程の一喝に、朔は気圧される。勢いで「は、はい!」と返事をしていた。
 隣で紗夜が、小声で補足してくる。
「私も言われてる。お祖父ちゃんって呼ばれると甘やかしたくなるから、だそうよ」
「へ、へー」
 なんだか納得するような、しないような。
 朔が呆けてると、隣で紗夜が粛々と漢己に対して頭を下げた。
「本日はよろしくお願い致します、漢己さん」
 それを見て朔も慌てて頭を下げる。
「よろしくお願い致します、漢己さん」
「うむ。こちらこそよろしくお願い申し上げる」
 漢己も礼を返すと、三人はまず神社の隣にあるお寺に向かった。昔名残の、今は関係者以外は使用していない神社とお寺を繋ぐ階段を上ると、朔も何度か会ったことのある和尚さんが本堂で待っていた。
 和尚は「お待ちしておりました」と三人を暖かく迎え入れてくれる。
 
 朔は二人と一緒に、ここでたっぷり四十五分間、休憩を挟みながら坐禅体験をさせてもらった。
 紗夜も全く叩かれなかった訳ではないが、三人の中で朔だけが、特に多く叩かれていた。
 
 次に三人は電車で移動し、田んぼの景色が左右に広がる場所で『白石道場』と看板を掲げる道場に来ていた。
 門を潜ったあたりで、何やら奥で大人と子供が揉める声が聞こえたが、漢己が中に声をかけると静かになる。しばらくして、奥から胴着姿の年配の男性が姿を現した。
「これは神宮寺さん。おはようございます。朝から騒がしくして、申し訳ありません」
「白石さん、おはようございます。本日はよろしくお願い致します。何か問題でも?」
「いえ、今日こそは愚息にもご挨拶をと思ったのですが……お恥ずかしい限りです」
 大人が話す後ろで、紗夜と朔は小声で会話を交わす。
「具足?」
「愚かな息子の方でしょう」
「ああ、そっちの愚息」
 どうやら親子関係がうまくいっていないらしいと、朔は勝手に解釈した。
 大人二人の会話が済むと、白石師範代は紗夜と朔に挨拶をして、道場に上がるよう促した。紗夜はここで時間が合うときに武術の基礎を教わっているということで、朔も同じ内容を午前中いっぱい体験させてもらう事となる。
 結局、お昼になって体験が終わっても、件の息子が姿を見せる事はなかった。
 
 神社に戻り、十三時半くらいまでお昼休憩をとると、今度は白衣に着替えて気仙宮神社の裏山で滝行体験となった。
「……うむ。数日雨も降っていないから水位も流れも問題ないな」
 漢己は川に手を入れ、前腕で川の流速と深さを確認する。
 朔は漢己にいろいろと注意点を教わりながら、先に滝に打たれている紗夜に続いて、川にそぉっと足を差し込んだ。
 冷たい——っ!
 朔はつま先から頭頂にかけてぶるりと体を震わせる。
 十一月一日。現在の気温は二十三、四度。だが、山の中や水辺というのもあって、住宅街よりも一、二度気温は低くなっている。
 紗夜はかなり平然と川の中で動いていたように見えるが、寒くないのだろうか。
 朔は言われた通りに体を水温に慣らしてから、いざ覚悟を決めて滝の中にも入ってみる。耳元で轟々と水の音が流れている。打ち付ける水も圧もめちゃくちゃ痛い。
 今日は朝から坐禅で何度も肩を叩かれたし、武術体験でも指導は厳しかった。けれど、これは群を抜いてキツイと思う。この状態で精神統一をする!?
 仰天するも言い出したのは自分なのだ。朔は意を決して心を落ち着かせ、滝行に臨む。
 
 ——が、五分と持たなかった。
 
「まあ最初はそんなものだ。温まっていなさい」
 漢己はそう言って唇を真っ青にして上がってきた朔に、厚手のタオルを手渡す。朔は素直にそれに包まり、紗夜が上がってくるまで震えながら丸まっていた。
 紗夜が上がってきたのは、それからきっかり十分後だった。
 同じように漢己からタオルを受け取り、髪や体を拭いていく。寒さを感じているようには見えないが、唇だけは朔と同じように青くなっていた。
「紗夜は、いつもこんな事してるのか?」
 紗夜は髪を拭く手を止めずに、朔の質問の答えを考える。
「一日で全てこなす事は珍しいけど……。滝行は天候に左右されるし、お寺や道場側の予定もあるから。ああ、滝行に関しては、いつもは朝にやっているのを、今日は一番気温が高くなる時間にしたの。サクが寒いと思って」
「あ、朝!?」
 一番寒い時間じゃないかと、朔は唖然とする。そんな二人の横では、漢己がその辺から手頃な石を手に取って地面に何かを書き始めた。
「さて、このままでは風邪をひいてしまうからな——二人とも、荷物を持ってこちらへ」
 しばらくし自分を中心とした円をを描いた漢己が、二人を手招きする。二人は言われた通り荷物を抱えて、円の内側、漢己の側に立つ。
 漢己が何かを呟いた。朔にはそれが何かはわからなかったが、紗夜にはそれが転移の呪文に聞こえた。地面が一瞬光ったかと思うと、次の瞬間には目の前に湯気を立てた泉が揺蕩っていた。
 泉の縁は岩で囲まれ、しっかり整備されている。
「え? えっ!?」
 朔が慌てて周りをキョロキョロと見渡すも、先程まで打たれていた滝も川もどこにもなくなっている。あるのは森と空と、温泉だ。
「二人とも荷物を置いて並びなさい。貸してくれた人から言伝ことづてがある。身を正して聞きなさい」
 言われた通りに二人が並ぶと、漢己は言伝を読み上げる。
 
 一、体をお湯で流さずに温泉に入る不可べからず
 二、温泉を汚す不可べからず
 三、温泉で騒ぐ不可べからず
 四、着衣のまま入るべし
 五、これで貸し借りなしだから!
 
「最後ってどういう意味だ?」
「サクのおかげで出来た貸しの話。まあ、それは後で。早く温まって。そのために借りたんだし」
 朔もまだ体が冷えて寒かったので、促されるまま渡された手桶で湯を汲み、体を一通り流す。それから、白衣のまま足からそぉっとお湯に入った。
「はぁ〜」
 じわじわと体の芯から温まるようで、思わずそんな声が出た。
「良い湯加減ね。教えるのを渋る訳だわ」
 隣から紗夜の声がした。首を巡らせば、紗夜も隣でお湯に浸かっている。
「さささよ!?」
 朔は驚くと音を立てて距離を取り、背中を向ける。
 一方の紗夜は、彼の反応がよくわからなかったのか、首を傾げた。
「漢己さん、何か問題ありました?」
「お年頃か。青春ですな」
 漢己と紗夜の感想がどこかズレていて、朔は頭を抱えたくなる。
 たまにちょっとズレているな、という認識はあったが……。
「普通の感覚持ってる人はいないのか、ここに!?」
「ねえサク、プールは男女一緒に入っているじゃない。着衣なのに温泉がダメな理由がわからないのだけど」
 紗夜は本当に朔の反応がよくわかっていないらしい。朔は仕方がないので、反対側の縁まで移動し、背を向けたまま湯に浸かることにする。
(俺が恥ずかしがってるだけかもしれないけど、でもやっぱりなぁ……)
 もう少し少年心にも気を配って欲しい。
 もやもやと紗夜になんと言って説明しようかと考えていると、返事がない事をどう捉えたのか、紗夜が話を先程の彼の疑問に戻す。
「それで、さっきの話だけれど」
「さっき?」
 肩越しに紗夜の方を見ようとして、朔は慌てて視線を前に向ける。
「貸しの話。筆箱、本当はちょっとした事故で壊されてね。向こうは弁償してくれると言ってくれていたんだけど、サクが新しいのをくれたから、そのまま貸しになっていたの。
 だから今回、ここの温泉を貸してもらえたわけ」
「ってことは、ここ私有地?」
「詳細はよくわからないけれど、その人が管理している温泉ではあるみたい。貸してくれた人は『ここは千年前からあたしの場所よ』って言っていたわ」
 千年前? その知り合いは本当に人なのだろうか? 知り合いの猫又みたいに妖怪だったとしても、不思議ではないが。紗夜の周りはたまによくわからない。
 さて、と紗夜が話題を切り替える。
「今日のプランはこれで全部だけど、希望に沿えていたかしら」
 感想を聞かれて、朔は湯に浸かりながら今日の出来事を振り返る。
 内容は大変だったが、初めてやる事ばかりで気持ち的には新鮮だった。最後の温泉は、たぶん紗夜が気を利かせてくれたのだろうと思うと、やっぱり良い日だったと思う。
 ただ、これを紗夜が毎日のように行っているのかと思うと、学校との両立が大変そうだと思うし、自分に手伝えることは何かないだろうか、と考えそうになる。
(でもたぶん、紗夜はそういうことは望んでないだろうしなぁ)
 普段からあまりこういう領域には踏み込んで欲しくなさそうなのは、直接言われなくても感じている。今回は自分のお願いをよく聞き入れてくれたと思っているくらいだ。だからこそ嬉しくて、余計にこの日が楽しみだったのだが。
「——大変だったけど、楽しかったし、嬉しかったよ。普段、俺の知らないところで紗夜がどういうことしてるのか、少しは知れて良かったと思ってる」
 背を向けている朔には見えなかったが、彼の感想を聞いた紗夜は、小さく微笑んだ。
「サクの希望が叶ったみたいなら、良かった。少し早いけど誕生日、おめでとう」
 紗夜の声が明るい。もしかして今振り返れば笑っていたりしないかと朔は思ったが、それは理性で思いとどまった。
 代わりに朔も嬉しそうに「ありがとう」とお礼を告げた。

朔誕2020

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