隠れ姫―おりん見聞録―

隠れ姫―おりん見聞録―

 私は鈴花。皆様からはおりん、と呼ばれております。
 私は大名家が嫌いです。裕福な暮らしをしているのに、下級武士をこき使うのですわ。少しはこちらの暮らしも考えていただきたいほどです。
 ですから、もちろん柳生の家も好いてはおりません。まぁ、あの姫とも思えぬ姫は、それ以前の問題ですが。
 今日はそんな姫の所に出向くことになりました。

 目的の屋敷の前につき、私は門扉を叩いた。
「ごめんあそばせ」
 そう声をかけると、少しして門扉が開く。
「どちら様でしょう」
 おずおずとした女性が顔を出し、用向きを訪ねてくる。
 私はすぐに答えた。
「こちらでお世話になっております、廸仁の妹のおりんにございます」
 名乗った瞬間、女性の顔が安堵の表情となる。
「お話は聞いております。ささ、どうぞ中へお入りください」
 門扉を少し大きく開き、私を招き入れたすぐ後ろで、その女性は門扉をお閉めになりました。
「こちらにございます」
 女性は私の前を歩き、先導します。少し歩いてその部屋につきました。
 女性が膝をついて中に声をかける。
「旻姫様。おりん様がお越しにございます」
 すぐに中から返事がありました。
「ありがとう。通して」
 私が中に入ると、とても珍しいものが見れました。江戸で時々騒がれる怪奇よりも珍しいものですわね、あれは。
 ええ、普段は侍姿しか見たことがありませんでしたから、正直に驚きましたのよ。
 あの姫が武家の姫の格好をなさっていたのですから。まるで町民が花魁の扮装をするようなものでしたわね。
「いらっしゃい、おりん。どうしたの?」
 私があまりに不思議そうな目で旻を見ていたからでしょう。旻は小首を傾げてこちらを見ております。それにつられて、おろした黒髪が緩やかに揺れました。
「いえ。なかなか珍しいことだと思っただけですわ」
 私は思ったままをそのまま言った。旻は少し眉尻を下げると、苦笑気味に言う。
「あたしだって、お客様が来るときはこういう格好するわ」
 まぁ、そのくらいの常識はありましてね。
 私は示された場所に座り、出されたお茶を口にした。
「なかなかのお茶ですわね」
「口にあったならよかった」
「お茶なんて誰が入れても大して変わりはありませんことよ」
 私の言葉に、旻は苦笑するだけでした。どうせ相変わらずとでも思ってらっしゃるんでしょう。
 さて、言うことを言ってさっさと帰りたいのですけど……。
 今日、私が来た目的。それを口にしようとした時でした。
「旻姫様」
 女中から部屋内に声がかかった。旻がすぐに応じる。
「何事です」
 私は目を見張りました。このお人、姫らしい振る舞いができたのですね。少しだけ見直しました。針の先程ですが。
 女中は部屋の前で膝の前に手をつきながら、旻と私の顔を窺いました。
 旻がちらりと私を見ましたが、すぐに女中の方に顔を戻しました。なんなんです?一体。
「構いません。なんですか?」
「それが、つい今しがた、三厳様からお饅頭が届けられたのですが……」
 随分歯切れが悪いですわね。三厳様、と言いますと、確か旻の兄君であられる柳生十兵衛三厳。柳生家の長子で、剣の達人でしたわね。
 確か今は大和にて道場をしておられるはず。噂では地方を回られているとも言われていますわね。
 旻の方をなんとなく見ていると、報告を受けた途端、変な顔になりました。
「三厳兄上が参られたのか?」
「いえ、それが使いの者だと名乗る者から渡されました」
 旻の目が深刻になりました。何もおかしな点はないように思えるのですか……?
 しかし、次に旻はとんでもないことを口にしたのです。
「そのお饅頭、誰も口にしていませんね? 即刻誰の口にも入らぬよう処分してください」
 私は仰天しました!人様から頂いたものをそう簡単に捨てるなど!!
 気がつけば私は口を開いてました。
「ちょっと、すぐに捨てるなどどういうことでして!? お相手の方に失礼ではありませんか!!」
 言ってすぐに、その場の雰囲気が妙なことに気がつきました。旻は相変わらす真面目な顔をしています。
 その表情のまま、旻は報告をしにきた女中に命を下しました。
「魚一尾と饅頭をこれへ」
「はっ」
 低頭し、その女中は奥に引っ込んだ。次に戻ってきたときには、手に水を浸し魚を入れた鉢と懐紙に包んだお饅頭を持たれていました。
 全員の見える位置にそれを置くと、旻の指示を仰いだ。
「あげなさい」
 旻は一言そう言いました。
 女中は言われた通りに饅頭をちぎって鉢の中の魚に上げました。
 魚がそれをつつきました。しばらくつついていましたが、不意に腹を上にして浮かび上がり、ぴくりともしなくなりました。
 私が目の前の現実に硬直していると、旻が静かに口を開きました。やや諦めの調子を含みながら。
「たぶん、姉上達の嫌がらせよ。こんなの、本当は見せたくなかったんだけど」
 一つ溜め息をつき、旻は片付けるように言いつける。
 私は理解できませんでした。家族が家族を殺そうとするなど。
 しかも今の言い方からしますと、毒を仕込まれたのは一度や二度ではないご様子。正直、ゾッといたしました。
「よく、あることですの?」
 旻は無言で頷いた。
「三厳兄上はその事を知って、何か土産がある時はいつも自ら出向いてくださるようになったの」
 それで、あの時三厳様がいらしたのかお聞きになったのですね。
 私は目を伏せて、旻の方にしっかりと体を向けた。膝の前に手をつき、頭を低く下げる。
「本日はこの間のお詫びに参りました」
「へ、おりん?」
「先日に致しましては、過度な言葉を申してしまい、大変申し訳ありませんでした」
 私は珍しくも心の底からの言葉を申しました。あの時、お兄様になぜあのように強く怒られたのか、今ようやく理解致したからです。
「別に、気にしなくてよかったのに」
 と旻は申しますが、そうもいきません。
「このような事情があるとも知らず、軽々しくあのような言動。本当に申し訳ありません」
「おりん、もういいから。顔上げて」
そう言われて、私は素直に顔を上げました。
「おりんからそんな言葉、聞けるなんて思ってなかった」
 まあ、失礼な。
「あの後、戻ってきたお兄様にこっぴどく叱られたのです」
「あーそれで」
 私は顔を上げて旻の瞳をしっかり見て尋ねてみました。
「どういうことですの?」
 旻は私から目をそらし迷うそぶりを見せましたが、話してくださる気になったようです。
 ゆっくりと、言葉を選びながら話を始めてくださいました。


~*~*~あとがき~*~*~

下書きフォルダに入ってるのが邪魔くさくなって上げた←
あんま手直ししてないです。それ以前に、この文章いつ打ったのだろう?

この前の段階で何があったのか、っていうのがないとわかりにくいと思うんですけどね(汗)
そっちはこれっぽっちも書いてないので、今の時点ではどーしよーもないです。

おりん、っていうか廸仁の家は、下級武士の家はでも、廸仁が柳生家と付き合ってるお陰で、身分にしてはいい暮らしをしてる方です。でも別に裕福じゃあ、ありません。これっぽっちも。その日の食事に困らない程度かな。

なんか前に、おりんはお稽古事してるだかなんだか書いた気がするんですが、行くお金ないよね?考えたら。あれって金持ちの道r(ry

てことは、働いてるのか、おりん。

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