私服の時間

「……くのいち」
「ハイハーイ♪ なんでしょう?幸村様」
 ザーザーと雨が降る中、あたしは元気に返事をした。
 あたしを呼んだ幸村様は、あたしを見て何か言い澱んでいるように見える。

 ふうみゅ?
「幸村様の御命令ならお相手しますよん?」
 幸村様の顔が一気に赤くなる。
「そっ! そんな軽々しくそのようなことを口に出すな!! そなたは女子なのだぞ!?」
「冗談ですよぅ♪にゃは〜♪」
 あながち冗談でもないけど。
「あー、それとも脱ぎますか? 女の子に飢えてるとか。幸村様も男ですねぃ♪」
「いつも簡単に脱ぐなと言っているだろう! 全く……、脱がずに帰ってこれないのか? そなたは」
 いやー、できない訳じゃないけど、その方がラクなのよねん。
 なんて言うと怒られるから言わないけど。
「それはまぁ、それとして。それじゃ御用はなんですか? 用がないなら戻りますよ〜」
「戻るって……、どうせ天井裏にでも戻るだけであろう?」
 まー、忍ですから。
「――前から気になっていたのだが」
 うんにゃ?
 幸村様がやっと話始めてくれたけど……?
「そなた、そのような格好で寒くはないのか?」
「…………はい?」
 あたしは目を点にした。袖を切った服を胸の下辺りで固定。裾を膝下で切って絞った袴を穿いている。腕は二の腕から晒しを巻きつつ帷子を固定。
 んまぁ、要するに肩だし腹出しという格好である。
 今の季節は初夏だし、寒いって……?
「今日は雨も降って肌寒い。私がそう思うのだから、私よりも肌を出しているそなたは、寒いのではないかと思ったのだ」
 あ〜、なるほどん♪
 幸村様の考えていることがわかると、あたしはガバリと幸村様に抱きついた。
「く、くのいち!?」
「幸村様ってばやっさしい〜♪ そう思うなら、幸村様があたしを温めてくださいよぅ♪」
「くのいち。私はまだ仕事が」
 むぅ。この仕事バカ。
 あたしは立ち上がる。腰に手をあて、幸村様を見下ろした。
「だったら初めから心配なんてしないでくださいよー。幸村様は上に立つお人なんですから、あたしに対してもも少し偉そうにしてていいんですよ〜?」
「そうもいかぬ」
 即答だった。
 あまりの即答ぶりに思わず一瞬言葉につまる。
「……なんでですか?」
「そなたは私の護衛であろう。戦場で私の背中を安心して預けられるのは、そなただけだと思っている。風邪でもひかれて倒れられては困るだろう」
 ――あれま。まさかここまで頼りにされてたとは。
 突然の告白に、あたしはぽかんとしてしまった。
「……くのいち。聞いているのか?」
「あ、はい。聞いてますとも」
「だから寒くはないのかと聞いたのだ」
「そういうことですか。あたしってば頼られてるんですね〜♪ それじゃ、体調管理には気をつけないとねん、にゃはん♪」
 ばさっ
 あたしが幸村様にくるりと背を向けて、ノリよくそんなことを言った時。突然後ろから衣をかけられた。
「へ?」
 ぽんっと頭に手を乗せられ、撫でられる。
「私はまだ仕事中だから、それを羽織っていろ」
 でもコレって。
「お返しします。幸村様がお倒れになったら、それこそ困りますよ」
 自分が今羽織ってたものを渡されてもねぇ。
「代わりなどまだある。羽織っていろ」
「でぇすぅけぇどぉ〜」
「これは命令だ」
 うにゃ〜……。そうこられると、断れにゃい。
 あたしは渋々承諾した。
「はーい。わかりました〜、うにゃん」
 幸村様の衣を羽織ってあたしは幸村様の部屋に入る。
「くのいち?」
「外は冷えるんです〜。中にいてもいいですよね? 幸村様。一緒にいた方があたしの仕事もしやすいですし♪」
 幸村様はくすりと笑う。そんな笑顔、反則だにゃ〜……。
「ああ。構わん」
「やったぁ♪」
 幸村様は仕事に戻る。あたしはその背を後ろから見つめる。
 それがあたしの私服の時間。

 ――後日
「それに戦場で御館様のご様子を見てきてもらうのにも役立つしな。ちゃんと食事はされたのか、お怪我などしていないか……えとせとらえとせとら……」
「この御館様ばか」

 ――さらに後日
「幸村が風邪をひいたと聞いた」
「帰れっ! この狐っ!!」
「いきなり帰すのは不義だぞ、幸村の従者殿」
「イカも帰れ。幸村様が元気になられたら面会に来てください」
「何? そこまで悪いのか、幸村は!?」
「くのいち、どうした?」
「わ〜っ! 幸村様おとなしく寝ててくださいよ!」
「これは、三成殿に兼続殿――!」
「幸村、大事ないか。俺が直々に見舞いに来てやったのに、そこの女狐が通してくれぬ」
「あったりまえでしょーが!あんたたちが来たりするから幸村様が起き出しちゃうんですよ!」
「三成殿。くのいちは女狐ではなく、子猫です」

間――。

「幸村様! そこはつっこむところじゃありません〜!!」
「思ったより元気そうだな」
「では、これ以上起き上がらんようにまた出直すか」
「ああ。相手の病を悪くするのは義ではないからな」
――終――


え?幸くの書きたかっただけですが、なにか?

最後の後日はおまけなので台詞だけです。

3はくのいち復活したらやりたいなぁ。

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