RSE物語 story4―トウカシティ―

ラルトスを手持ちに加えたナオはトウカシティに着いていた。
トウカジムで父・センリと特別にジムバッジをくれる約束を取り付けるが、
その条件とは……。

RSE物語―トウカシティ―

「ここがトウカか。思ったより近いんだ」
 街の入口に立ったナオは、今し方通ってきた道を振り返りながら呟いた。
「さて、パパに会いに行こうか。ねえ、プー」
 肩の上のププリンのプーにナオは話しかける。ププリンは嬉しそうに頷き、ピョンッと跳ねた。
 ナオが慌てて跳ねた体を抱え込む。
「あーもう気をつけて」
 あまり気にした風もなく言うナオに、プーはころころと笑った。

 トウカジムの戸を開け、ナオは中に入った。
「ん?挑戦者かい?」
 入った瞬間声がかかる。
 中を見ると、部屋の中央にセンリと一人の少年が立っていた。
「あ、パパ」
「ナオか!」
 プーがナオの腕の中から飛び出し、センリの元へ跳ねて行く。センリがそれを抱き留めた。
「プーもナオも元気か?」
「元気元気。ていうか、昨日今日のことじゃない」
「ははは。ミツルくん、ちょっと待っててくれるかい?」
 センリは横にいる少年に話しかける。少年は、はい、と頷いた。
「それで、今の手持ちはどうなってる?ホウエンもここまで来るだけで、いっぱいいただろう」
 ナオは腰のモンスターボールを手に取り見せる。
「はい」
「プーにキモリにラルトスか」
「うん。キモリはオダマキ博士から。ラルトスは102番道路で」
 ラルトスは、なんか珍しそうだから、という理由で捕まえていたりする。
「今はこれだけ。で、ジム戦してくれるの?」
「いや、……もう少し育ててから挑戦に来なさい。いくらお前でもまだ無理だよ」
「無理じゃないかもよ」
「……そんなに今欲しいか?」
「絶対欲しい」
 ナオの返答に、センリは少し考え込む。
「ふむ……。そうだ、これなら。いや、むしろ丁度いいか」
 ブツブツと独り言を呟くと、再びナオに向けて口を開いた。
「ジム戦はまだできないが、今から言うことをしてくれたら特別にバッジをやろう」
「何すればいいの?」
 センリは横にいた少年の肩に手を置く。
「こちらの少年はミツルくんという。彼のポケモン捕獲を手伝ってあげて欲しい 」
「なんで。一人で行けばいいじゃない」
「彼は肺が弱くてね、一人でそういう場所には危険だから行けないんだ。パパは これから急用が入っていて一緒に行くことができない。いいだろう?ナオ」
「……わたし、そういうの苦手なんだけど」
「知ってるさ。だからだ」
 ナオとセンリはしばし見つめ合う。――先に折れたのはナオの方だった。
「わかった。行けばいいんでしょ。行くよ」
 ナオはさっさと踵を返して扉の方に歩いて行く。
 その後をプーとミツルが慌てて追って行った。

 ナオの後ろを必死にミツルがついていく。
「あの、ナオさんでしたっけ」
 ミツルが声をかけ、初めてナオは足を止めた。
「そうだけど、何?」
「その、よろしくお願いします! ボク、ポケモン初めてで、わからないことが多いかもし」
「うるさい。いちいちわかってること言わないで」
「え、え?」
「そんなこと言うためだけに声かけたの?」
 ミツルのことなどお構いなしにズバズバとナオは言葉を続ける。
「えっ、えっと。できればもう少しゆっくり歩いてくれると」
「わかった。少しだけよ」
 言うと、ナオは先程よりもゆっくりと歩き始めた。
 ミツルは目をしばたたかせる。
 なんだろう。彼女の何かが引っ掛かった。
「あ、それから」
 ナオが再び足を止める。
「こほっ、このポケモン……」
 ミツルは自分の頭の上を指差した。プーがミツルの頭後ろからひょこりと顔を出す。
 彼女の反応までにしばし間があった。
「――て、プー!? ついてきてたの?」
 驚くナオに、プーはぴょん、とミツルを離れてナオに飛び付いた。
「パパのところにいると思ったのに」
 するとプーは何かを抗議する仕草をした。ナオは目をしばたたかせる。
「ミツルとなかよくなりたかった?」  プーは満足そうに頷いた。それからすぐにまたミツルの方へ飛び移る。ミツルは抱くようにして受け止めた。
 ナオはミツルを見ながら軽く苦笑する。
「だって、ミツル。その子はププリンのプー。友達になりたいって」
「ボクと、友達に?」
 プーは頷く。
「ボクの方こそ」
 ミツルはプーと目線を合わせて笑いあう。
「それにしてもすごいですね、ナオさんて。ポケモンの言ってることがわかるなんて」
 プーとの挨拶を終えたミツルは、プーを抱えたままナオに顔を向ける。
「わかるのはプーだけ。さ、早く行くよ」
 ナオは先を歩き始める。ミツルはその後を今度はすぐについていく。
「ナオさんとプーはなかよしなんですね。いつから一緒にいるんですか?」
「……生まれた時から」
「え?」
「プーが、タマゴから生まれた時から」
 そう言うナオはどこか遠くを見ている感じだ。
「――すごいですね。ボクもナオさんとプーみたいになかよくなれるかな」
「大丈夫よ」
 間髪いれずに返ってきた答えに、ミツルは呆けた顔をする。
「ポケモンへの優しさがあれば大丈夫。プーがすぐになついたんだから自信持ちなさい」
 そこでナオが肩越しに振り返る。
「プーは優しくない人には絶対なつかないから」
 ミツルの顔が明るくなる。
「はい! ……けほっ」
 ナオが足を止めた。
「で、どのポケモンがお望み?」
 ミツルも同じく足を止めて前を見た。
「くさむら……」
「街中じゃいないからね。お目当ては?」
「ポケモンならどのポケモンでもいいんですけど……」
 ミツルの返答にナオはため息をつく。
「自分が使うポケモンよ? ずっと一緒にいるなら、より自分が気に入ったポケモンにしなさい。――そういえばポケモンは?」
「え?」
「バトルして捕まえるんでしょう? パパから借りたりは?」
 ミツルは首を横に振る。
「そう。じゃあはい」
 ナオはモンスターボールを一つミツルに手渡した。
「中身はラルトス。今だけかすわ。プー、そろそろこっちきなさい」
 プーはおとなしくナオの頭に飛び移る。
 ナオはそれを確認すると、くさむらにどんどん入り込んでいく。
「気に入ったポケモンがいたら声かけるように」
「あ、はいっ」
 ナオの後ろにつきながら、ミツルは辺りを見回してみる。
 ジグザグマ、ポチエナ、ハスボー、タネボー軽く見渡すだけでも多くのポケモンが見つかった。
「すごい。街を一歩出るだけでこんなにいるなんて」
「この辺りにいるのは本の一部よ」
「それでも、すごいです! こんなに見たの、初めてですから」
 感激に見渡すミツルの言葉に、ナオは無言を通した。
 あっちを見てこっちを見て。そんな時上から鳴き声が聞こえた。
 ミツルは空を見上げる。
「スバメよ」
 前方から声がした。ナオだ。彼女も同じように空を見ている。手にはポケモン図鑑。
 ミツルは再び空を見上げた。
 一匹の鳥ポケモンが空を滑っている。
 その姿をしばし見つめ、
「ナオさん」
 ミツルはポケモンを見つめたまま口を開いた。
 ナオはミツルに視線を移す。
「ボク、あのポケモンがいいです」
 その言葉を聞いて、ナオは再びスバメを見る。
「スバメでいいのね?」
 ミツルは、はい、と頷いた。
 さて、どうするか、とナオは考え始める。
 相手は空を飛んでいる。あの高さではラルトスの技は届きそうもない。戦うには地上に落とさなければ。
 ナオは首を回らせて、見つけた。
「ミツル、あっちは?」
「あっちは海ですけど」
「なるほど。ミツル、ラルトス出しといて」
「あ、はい!」
 ナオは一点を見たままそう言った。その視線の先には――スバメよりも低く飛ぶ、キャモメの姿。
「キモリ!」
 ナオはボールを投げ上げた。
 ボムッ!
 キャモメの上でボールが開き、キモリが飛び出してくる。
「キモリ、“はたく”!」
 キモリがキャモメの頭目掛けて、尾を降り下ろす!
 バシィンッ!
 頭をはたかれたキャモメは少し落下して、よたよたとなんとか空中にとどまる。が、キモリの第二撃がキャモメの体に決まった。    キャモメは頭をくらくらさせながら地面すれすれに浮いている。
 ナオはすかさず空のボールを投げる。
 ボンッ――と音がしてキャモメがボールに収まった。
「よし」
 確認したナオはすぐにボールからキャモメを出した。
「キャモメ! スバメ逃がさないで!」
 キャモメはすぐに上昇してスバメと交戦状態となる。
「すごい……」
 ミツルはナオの早業に目を丸くしている。キャモメとスバメの戦いを傍観していると、横から叱責が飛んできた。
「ぼやぼやしないっ!」
「はっはい! ごめんなさい!」
「体調は平気?」
「ええ、今のところは」
「今からスバメをラルトスの技が届く範囲まで落とすわ。そしたらラルトスを前に出しなさい」
「はい!」
 ミツルの返事を聞くと、ナオはキャモメに声をかける。
「キャモメ!」
 声に応えて、キャモメは少しずつ下に降り始めた。交戦しているスバメも追いかけるように降りてくる。
 少しずつ、少しずつ――……。
「ミツル!」
「ラルトス!」
 ナオの合図にミツルは ラルトスを前に出す。
 キンッ――!
 空気が割れるような音がしてスバメが苦しそうにもがき始めた。
「“ねんりき”よ」
「ねんりき……」
 ミツルはゴクリと唾を飲み込んだ。
 自分は今、ポケモンと一緒に戦っている……!
「気を抜かないで。鳥ポケモンは空に逃げられたら終わりよ」
「はい!」
 スバメがラルトスの技から逃れられず、地面に足がつく。
 スバメがキリッ! とラルトスを見た。
「……ポケモンって、こうして戦って、弱らせてから捕まえるんですよね」
「そうよ。でもまだ大丈夫。続けて」
「……はい。ラルトス」
 ラルトスはミツルに応えて技を出し続ける。
 スバメがよたり、と足がぐらついた。
「そろそろか。ミツル、空のボール」
 ナオの指示に従ってミツルは、えいっ、と空のモンスターボールを投げた。
 バシッ!
 一瞬解放されたスバメはハネでボールを跳ね返した。
 跳ね返されたボールは砕け散っている。
「……“つばめがえし”か。ミツル諦めずにもう一回」
 ミツルはもう一度投げるが、また弾かれる。
「はあ、はあ、ラルトス」
 逃げられないようにラルトスは技を繰り出す。
「……ミツル。どうしてスバメがいいと思ったの?」
 ミツルは突然の質問に、きょとん、とした顔でナオを見るが、すぐに顔をスバメに戻した。
「空を飛んでいる、姿が、かっこよかったから。ベタだ、て言われそうだけど、こんな体の弱いボクでも、鳥ポケモンがいれば遠くまでいけるんじゃないか、て思ったんです」
「――本当にベタね。まあ、悪くないんじゃない?それじゃあミツル。その思いのままボールをぶつけてみて」
「え、でも」
「大丈夫。時に強い気持ちは常識を覆すものよ」
 それから一呼吸おき、
「わたしと、ラルトスを信じなさい」
 ナオがラルトスを指差した。
 ミツルは目をしばたたかせて、不思議そうにラルトスを見た。
「『ラルトス、きもちポケモン、頭のツノで人の気持ちを感じとる』。ツノが光ってるでしょ。ミツルの強い気持ちを感じとってるんじゃない?」
 ミツルはしばらくラルトスを見つめ、コクリ、と頷いた。
 ねんりきが解かれた一瞬を狙ってスバメが逃げようと羽ばたいた。
「あ!」
 ボールの位置とスバメの位置がずれ、ボールはスバメの手前下に飛んでいき、地面に当たってバウンドした。
 バウンドしたボールは羽ばたいたスバメの方に飛んでいき――さすがにそれを避けるだけの体力は残っていなかったのか、スバメに当たる。
 ボシュン! ――コン、コンコン……。
 ボールに収まる音と、地に転がる音。
 カタカタ、と音がしたが、すぐにおとなしくなった。
 沈黙。
 ミツルは呆然とそのボールを見つめている。
「つか、まえた?」
 少し咳き込みながらも、ボールに近づいていく。
 ミツルはそっ、とボールを拾い上げた。
 中にはスバメが入っている。
「ボクが、捕まえた」
「そうよ。あんたが捕まえたの。これで満足?」
 ミツルは満面の笑みで振り替える。
「はい! ありがとうございます!!」
「じゃ、帰るわよ。もうすぐ日も暮れるし」
 ナオのその言葉に、ミツルは初めて日が傾いていることに気がついた。その日を背にしてキャモメがナオの方に降りてくる。
「キャモメ、ご苦労様」
 肩に止まったキャモメをボールに戻し、ナオは踵を返す。
「ナオさん! ――来るときに急ぎ足だったのって、もしかして」
「病人を暗い中連れ歩けないでしょ?」
 そう言ってさっさとミツルの前を歩きだす。ミツルもその後ろについていく。
 やっぱり、来るときに感じた違和感はこれだったんだ、とスバメを大事そうに持ちながらミツルは思う。
「あ、そうだ。ナオさん、ありがとうございました」
 ミツルはボールに収めたラルトスをナオに手渡す。
 ナオは無言で受け取った。
 二人が草むらから出ると、大人が二人立ち話をしていた。

 ――聞いたか? 昼間この先のトウカの森で一騒動あったそうだぞ。
 ――ああ、聞いた聞いた。ここらじゃもうその話題でもちきりさ。
 ――違いない。なんてたって見た奴の話だと、被害者があのデボンの社長らしいからな。

「デボン?」
 思わず立ち聞きしていたナオは、聞き慣れない単語に首を捻った。
「デボン・コーポレーションっ……て会社のことですよ」
 答えたのは同じく立ち聞きしていたミツルだ。
「大丈夫? 苦しそうだけど」
「はい。……ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな。……デボンはホウエンですごく有名な会社なんです」
「ふうん」

 ――でさ、社長を助けた少年がいるんだと。
 ――へえ。誰かが助けたとは聞いたけど、少年だったのか。
 ――ああ。話じゃ、ミズゴロウを連れた少年だったらしよ。

「ミズゴロウを、連れた少年?」
「ナオさん?」
 呟いたナオに、ミツルが不思議そうに問いかけた時だった。
 突然プーが騒ぎだし、森の方へと飛び出した。
「ちょっと!?」
 ナオが慌てて追いかけるが、プーは止まりそうにない。
「ミツル! 一人で帰れる!?」
「あ、はい! たぶん!」
 ナオはミツルの返事を背中で聞き、プーの後を追いながらポケギアを取り出した。
『ナオか?』
「パパ? ミツルを迎えに行って」
『一緒にいるんじゃないのか?』
「ちょっといろいろあって。詳しくはミツルから聞いて」
 言うだけ言うとナオは電話を切った。
「プー!」
 いまだに止まらないプーの後を追って、ナオはトウカの森へと入っていった。
 森に入って少し行ったところで、プーはようやく足を止めた。
「プー! 勝手にどっか行くんじゃない!」
 追い付いたナオが屈んできつく言うと、プーはナオを見上げて何かを言った。
「さっき大人が話してた少年がユウキかもしれない、って? それはわたしも考えた。旅立った日から数えてもこの辺を歩いててもおかしくないからね。で?」
 再びプーが何かを言う。
「心配じゃないのか? なんで心配する必要があるの。アイツが勝手に首突っ込んだんでしょ。わたしには関係ないこと。一回顔会わしただけじゃない。ほら、ミツル置いてきちゃったらパパにバッジもらえなくなるでしょ。トウカに帰るよ」
 そう言ってプーを抱え上げようとすると、プーが怒ったように騒ぎ出した。
「今度は何?」
 仕方ない、手を引っ込めて話を聞く体制をとる。
 プーの身ぶり手振り付きの言葉を聞いていくうちに、段々とナオの眉間にシワが寄っていく。
「は? なんで」
 プーの言葉を聞き終わったナオの第一声がそれだった。
 プーが抗議する。
「イヤよ。なんでわたしがアイツの後を今から追わないといけないの。そもそも友達でもないし、心配もしてない。大体あれがユウキって確実にわかったわけでもない。はっきり言ってわたしとは無関係。よって追う意味なし。トウカに帰るわよ」
 プーは首を横に振る。
「……」
 ナオとプーのにらみ合いが始まった。両者譲る気配は見られない。
 じっ――……
 突然プーがくるりと向きを変えた。そのまま森の奥の方に歩いていく。
「――っ! あーもう!!」
 苛立たしげに前髪をくしゃり、とかき揚げて、ナオはプーを抱き上げる。
「わかったわよ! 行けばいいんでしょ! 行けば!!」
 結局折れたナオは、プーを肩に載せて森の中に踏み込んでいった。


〜*〜*〜あとがき〜*〜*〜

トウカシティ、というかミツルくん話。 日下先生以上のものは書けませんって。本当神です、先生方は。

そういえばミツルって引っ越すんだっけ、と後から気づきました。あまり思い入れがない模様です(汗)

次はトウカの森で、噂話の真相です。て、真相も何もないけど。

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