RSE物語 story7―デボン・コーポレーション―

急いでデボン・コーポレーションに戻るユウキとツワブキ社長だったが、
大事な起動部品がアクア団に奪われてしまう。
取り戻そうとユウキは彼らの後を追いかけていく。

RSE物語― デボン・コーポレーション―

 森の影が薄くなり、目の前を赤い光が満たした。
 結局あっさりと時間をかけずに森を抜けてしまったナオは、全身に光を浴びるように伸びをした。
「結局会うことなく抜けちゃったじゃない。満足?」
 ナオの前で辺りを物珍しげに見ていたププリンのプーは、ナオを見上げて不満そうな顔をした。
「さーて。確かこの先は」
 それを思いっきり無視して、ナオはホウエンのタウンマップを取り出した。
「今通ったのが“トウカのもり”。この先は“カナズミシティ”……か」
 確か父であるセンリが、トウカの先でジムがある一番近い町だと言っていた。
 今太陽は山の上だ。街に着く頃には沈んでしまっているだろう。
 タウンマップをしまうと、プーをボールに戻そうとして、ふと手を止めた。
 腰についているモンスターボールの中にいるのはキモリとラルトスと、キャモメ。
 ナオはキャモメのボールを手にとった。
 ミツルとのことを思い返し、そっと、安堵のため息をつく。
「……キャモメ」
 ナオはキャモメを外に出し、話かけた。
「ミツルの手伝いのためにあなたを捕まえたわ。こっから先もついてくる? 野生に帰りたかったら帰ってもいいわ」
 ナオの腕に止まるキャモメは首を傾げてから、ナオの肩に移動した。
 それはキャモメの“ついていく”という意思表示だ。
 ナオは一瞬瞑目する。
「……わかったわ。これからもよろしく」
 意味をしっかりと理解したナオは、キャモメとプーをボールに戻して、駆け出した。
 カナズミシティに向かって――

 時は遡って昼下がり。
 デボン・コーポレーションの社員の格好をした男が一人、受付で軽く挨拶をした。
「おつかれさまです」
「あら、もうお帰りですか?」
 受付の女性は、時計を見て少し驚いた顔をした。
 決して早すぎる時間でもないが、かといって、こんな時間に、と思うような時刻である。
「ええ。これから外せない大事な用が入ってまして」
「あら。引き止めてごめんなさい。飲みすぎはいけませんよ」
 受付の女性は、人付き合いの準備とでも思ったのか、軽く笑いながら、おつかれさまです、と挨拶をした。
 男が外に出ようと出入口に足を向けた時。
 外から人が二人入ってきた。
「あら社長、お帰りなさいませ。どうしたんですか? そんなに慌てなさって」
 受付の女性が不思議そうに入ってきた人物――ツワブキ社長とユウキに向かって声をかけた。
「はあ、はあ。私が留守の間に誰か出ていかなかったか?」
 肩を上下させながら、ツワブキ社長は受付の女性に問いかける。
 女性は思い返し、首を横に振ろうとして――思い留まった。
「特にいませんでしたけど、ちょうど今、そちらの方が」
 受付の女性はそう言って、今出ていこうとしていた男を手の平で示した。
 ツワブキ社長は男に近づいていく。
「少しいいかな」
「なんでしょう、社長」
「君の荷物の中身を確認させてくれ」
「どうしたんですか? 急に。変なモノは入ってませんよ?」
 男は素直に手に持っていたカバンを開いてツワブキ社長に中身が見えるように傾けた。
 社長が中を覗き込み――

 ドスッ――!!

「がっ!!」
 ツワブキ社長が腹を抱えてうずくまる。
 カバンの影から男が拳を繰り出したのだ。男はその隙に出入口に向かって走り出す。
「社長!」
「待て!」
 受付の女性が社長に駆け寄り、ユウキが出入口に立ちはだかる。
「どけガキ!」
 ドン――!
 男は荷物を抱え込み、ユウキに体当たりをする。
「わっ! ――この!」
 大人と子供。衝撃を受けきれずに壁にぶっかってる間に男は外に逃げ出している。
「待て!!」
 ツワブキ社長が気にはなるが、ここで男も逃がせない。ユウキは男の後を追い始めた。
 残された受付の女性は、ツワブキ社長を壁際に移動させる。
「社長大丈夫ですか」
「あ、ああ」
「一体何が」
「……起動部品が」
「え――?」
 受付の女性はツワブキ社長の言葉に耳を疑う。すぐに社内電話を手にとった。
「もしもし。こちら受付です。すぐに確認していただきたいことが――」

 カナズミシティを106番道路に出た辺りで、ユウキは男を見失った。
「どこに」
 辺りを見渡すも草むらと立ち並ぶ木々しか見えない。
「どうかしたか? 少年」
 声をかけられ、振り向くと、小太りな男の人がユウキを見ていた。
「あの、人を探してるんですが」
「人? この先の道路はエネコやツチニンの生息地になっていてな。それ目当てにここを訪れるトレーナーやマニアが結構いるぞ」
 エネコやツチニンというと、生息数が少なく、かつペットとして人気のあるポケモンだ。
 人が多いから見つかるかねえ、と男は首をひねっている。
「誰か、ここを通っていきませんでしたか? あっちから来て、ついさっきだと思うんですけど」
 ユウキは構わずカナズミの方を指差し、男に訪ねる。
 男はアゴに手を添える。
「ん〜? そりゃ男かい? もしかして」
 男の反応に、ユウキの目に期待の色が宿った。
「はい。スーツを着ていたと思うんですけど。あとカバンを持っていたはずです。このくらいの……」
 ユウキが手振り付きでさらに詳しい説明をすると、男が得心したように頷いた。
「そいつなら見たぞ。坊主が来る少し前にオレの前をすごい早さで通りすぎてってな。あっちの方に行ったぞ。うん、そう――カナシダトンネルの方だ」
「カナシダトンネル……?」
 ユウキは出てきた単語に眉をひそめた。
 前にニュースでやっていたので知ってはいるが、記憶が正しければそのトンネルは今――。
 ユウキは頭をひとつ振ると、男に礼を言ってその方向に走り始めた。今考えるのはそんなことではないからだ。
 草むらをかき分けひたすら進んでいくと、建物が見えてきた。トンネル工事が行われるときに建てられた、簡易休憩所だ。
 その建物の前に、人が二人何か言い争っていた。
 一人はトウカの森で出会った奴らが着ていたのと同じ服を着た男。盗んだカバンも持っている。
 もう一人は、キャモメを連れた見知らぬ老人だった。
「いいからどけっ! この老いぼれが!」
「そんな鬼気迫った顔をされてもなぁ。このトンネルはまだ繋がっとらんと言っとるだろが。のお、ピーコちゃん」
 キャモメはどうやら“ピーコちゃん”と言うらしい。いやそれより、老人の言葉にユウキはやっぱりと内心納得した。
 カナシダトンネルは途中まで機械で掘り進んでいたのだが、中に住む臆病なポケモンたちが機械の音に怯え始めた。ポケモンを怖がらせるのいかがなものか、と工事はそこに住む野生ポケモンたちのために中止されたのだ。
 今は機械を使わずにトンネルを掘る方法を模索していると言ったところか。
 ユウキは男に一歩近づいて声を張り上げた。
「そこのご老人の言う通りだ。トンネルは向こう側まで貫通していないよ。さあ、荷物を返してください」
 男は振り返り舌打ちして毒吐いた。
「ちっ、もう来やがったか」
 ユウキはいつでもボールを持てるように構える。
 男はユウキと老人を交互に見やり――
 ドンッ!
 いきなり老人にタックルをかけた。
「ぅぉうっ!」
 老人はよろめき、しりもちをつく。その周りからキャモメの姿が消えていた。
「おいそこのガキ。コイツに危害を加えられたくなきゃあきらめな」
「ピーコちゃん!」
 男の腕の中に収まっているキャモメの姿。老人が取り替えそうとするも、あっさりかわされる。
 ユウキは歯噛みした。沸々と怒りが込み上げてくる。
「……大事な荷物を盗んで、社長を殴って、ご老人のポケモンを盾にして、どこまであなたは最低なんですか!」
「はっ! なんとでも言え。世の中にゃ勝てば官軍って言葉があるんだよ!」
 男は言うなり、キャモメを持ったままトンネルの方に走り出した。
 ユウキも後を追う。
(あれだけ貫通していないって言ったのに、何を考えてるんだ?)
 しかし男はトンネルには入っていかず、その入り口横の小高いところを登っていく。山の裾をトンネルを掘るために削ったところだ。
 ある程度登ると、男は足を止めた。
「そろそろか……。おいガキ」
 男は空を仰いで何事か呟くと、ユウキに顔を向けた。
 ユウキは剣呑な視線で返す。
「こんな荷物くれてやるよ」
 その言葉と同時に、男はユウキの足元に持っていたカバンを放り投げた。ドサッと音がする。
「!?」
 投げ出されたカバンを見て、ユウキは驚愕で目を見開く。もしや見失ったときにでもカバンをすり替えたとか、起動部品だけ取り出したとかだろうか。
 男はそんなユウキの思考を読み取ったのか、皮肉げに口端をつり上げた。
「オレは最初から起動部品は盗んじゃいないよ」
 一寸、耳を疑った。
 のろのろと強ばった顔を上げ、凍りついた瞳を男に向ける。
「なん、だって?」
 男ハ今、ナント言ッタ――?

 その頃デボンコーポレーションでは、小さな騒ぎが起きていた。
「起動部品が盗まれたかもしれないって?」
 受付からの電話をとった社員の一人は、そんなバカなと一笑した。
「起動部品は厳重に保管されているし、社内でも保管場所を知っているのは数人だ。それに鍵は私が持ってるんですよ?」
 男は苦笑しながら鍵があるのを確認する。確かに自分の手元にある。
「ご心配なら確認してきますよ? はい。それじゃあ早速」
 社員の男性は、受話器を置いた手で鍵を掴むと、席を立ち、そのまま一直線に保管場所に向かった。
 鍵を差し込み、指紋照合。それから暗証番号を入力する。認識された所で差し込んだ鍵を回すと扉が開く。
 中を覗き込んで息をはいた。
「ちゃんとあるじゃないか。全く、誰のイタズラだい」
 社員男性は一応傷やら 何やらがないか、確認しようと手を伸ばした。その時。
 ゴッ――!
 頭後ろに衝撃が走り、社内男性はその場にくずおれた。
 後ろから殴ったものは、男性には目もくれずに起動部品に手を伸ばす。
 ハスブレロを従えた女性は、起動部品をしっかりと手にすると、ハスブレロに命令して手近な窓をかち割った。
「さようなら。お馬鹿で間抜けな集団さん」
 起動部品を盗んだ女性は、呟くと窓の外に身を投げた。ハスブレロも後に続く。
 バサッ、と羽ばたく音が一回聞こえ、外にはペリッパーに乗って飛び去っていく女性の姿があった。

 ザザッ――
「はい、こちらイズミ」
 イズミは無線を手にとった。向こうの声を聞き、ニタリとする。話が終わったのか無線を切り、ポケットにしまった。
「ミッション・コンプリートよ♪」

 男の言葉を聞いたユウキは、自分の顔が強ばるのを自覚した。
 衝撃で凍りついた喉から、必死に声を絞り出す。
「なん、だって……?」
「オレは囮役さ。オレがあたかも大事な大事な起動部品を盗んだように見せかける。すると、会社側は逃げたオレを追う奴と、本当に盗まれたかどうかを確認する奴に分かれる。後はそいつらが勝手に起動部品への道を教えてくれるって訳さ。もう一人の仲間にな」
 男のわざわざなご丁寧な説明に、ユウキはようやく事態を理解し、悔しげに顔を歪めた。
「――つまり、ボクはまんまと騙されたわけだ」
 吐き出した声が、自然と怒りを圧し殺した声になっている。だがユウキは構わない。
 それにしてもあまりに手が込んでいる。たった一つ、物を盗むだけだというのに。
「そんなにしてまで、どうして起動部品が必要なんだ! あれは会社のために造ったもので、お前たちが持っていても意味がないだろう!? 一体何が目的なんだ!!」
 ユウキは男を睨み付ける。が、答えは上から降ってきた。
「我々にはどうしても必要なものなのよ。やっだ、坊や聞いてなかったのぉ?」
 この独特のしゃべり方。ユウキは空を見上げる。――イズミだ。
「トウカの森の……」
「あんたに今、構ってる暇はないのよん。用もないしぃ〜」
 女がそう言い終わるのと同時に、ユウキの向かいにいた男の側を飛行ポケモンが通り過ぎる。
 通り過ぎた後に、男の姿はなかった。
『ああっとそうだ。コイツは返してやるよ。ありがたく思いな』
 上空から声がし、慌てた風のキャモメのピーコちゃんが、一直線にユウキに突っ込んできた。
「うわわっ!」
 思わず抱え込みながら尻餅をつく。とりあえず、ピーコちゃんが無事なようでほっとした。
『じゃねん、ぼ・う・や♪』
 先程よりも遠い声に、ユウキが顔を上げると、すでにその空のどこからも、奴らの姿は消え失せていた。
 呆然と空を見上げるユウキに、怯えたようにユウキにすがりつくピーコちゃん。
 ユウキはピーコちゃんを抱き締めるように俯いた。

 ――悔しい。

 今のユウキの心の中はそれだけだ。いろんなことがない交ぜになって、ただひたすらに悔しくて悔しくて、悔しい。
 相手に実力が至らなかったこと、ツワブキ社長に頭を下げられてまでお願いをされたのに、結局自分は何もできなかったこと。
 そう、何も――
 そんな自分の非力が悔しくて仕方がない。
 しばらくそうして俯いていたユウキは、目をこすると立ち上がって老人のいるところに戻っていった。


〜*〜*〜あとがき〜*〜*〜

ユウキくんガンバp(^-^)q☆
これにてとりあえずアクア団は一段落です。
ポケモン世界に“勝てば官軍”なんて言葉あるか知りませんが。使わない方がよかったですかね?

受験で続きが大幅に遅れてしまい、読んでくださってる方には申し訳ありませんでした((汗))
本当にごめんなさいm(__)m!

そういえば、今回ポケモンバトルがありませんでしたね。ハスブレロが人を殴り飛ばしたくらいで。

これはポケモン小説としていかがなものでしょう?とか言っても、次もバトル入りそうにないなぁ。予定だと。

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