利き小説に参加しました

掲載場所や他の参加者の方の小説はこちらです。

利き小説(@774noutugi) - カクヨム


『神様、奇跡なんていらないから』

 男は非常に満足していた。

 見下ろす水面には地上のどこかの風景が投影されており、その中では老若男女が入り乱れて、抱き合い、飛び跳ね、オーバーリアクションで喜びを分かち合っている。

 中には一体どこにそんなパワーがあったのかと思わせるほどのよぼよぼの老人が、杖を片手に元気に踊り回っているのだから、よほどこの土地の人々にとって良いことがあったのだろう。

 喜んでいるその人々の姿を確認して、男はたっぷりと長く蓄えた立派な髭をなでつけながら一人しきりに嬉しそうに頷いている。

 今回も人々を幸せにできたようだ。自分の選択は間違いではなかった。やはり人々の喜ぶ姿を見るのは嬉しいものだ―などと、男が自己満足に浸っていると、つかつかと遠くから足早な音が響いてきた。

「失礼します」

 大理石造りの壁や天上に反響して届いた声に、男は水鏡から声の方へと視線を移す。神殿の入口に姿を現したのは、ブロンドの丸刈り頭にメガネを掛けた、黒いスーツ姿の恐ろしく美形な男性だった。

 眼鏡の奥に佇むヘーゼル色の目は、鋭い氷のように細く冷たい。そこから感情を読み取るのは難しいほどに、その目は感情を押し殺していた。

 男は略式の礼をとってから、髭の男に近づいていく。

「ルーくん、一体どうしたんだい。そんなに目を怒らせて」

 髭の男は、纏っているベージュ色のトガと、髭と同じこげ茶色の緩いウェーブの長髪を引っ掛けないように、絢爛豪華な細工が施された椅子へと腰掛け、近づいてきたスーツの男―ルーくんに声をかけた。

 髭の男いわく、どうやらそのルーくんとやらは怒っているようだが―やはり表情からは読み取れない。

 ルーくんは白髭の男の横まで辿り着くと、ビシッと姿勢正しく直立する。

「神様、また奇跡を起こされたと聞きましたが」

「おお、ちょうど今見ていたところだよ。キミも見ていくかい? まだそこの水鏡から繋がっているは」

「一体何をしているんです、あんたは! つーかまたか!」

 ルーくんに「神様」と呼ばれた男は、尋ねられて喜々と目の前にある大きな噴水を指し示して喜びを分かち合おうとしたが、最後まで言い切る前に、ルーくんの怒声に遮られてしまった。

 どうやらこの神様の言う通り、本当にルーくんは怒っていたらしい。

 ルーくんは一つ深呼吸すると、神様を一瞥する。

―神様、奇跡なんていらないから、働いてください」

「奇跡を起こして働いたじゃないか、ルーくん。みな喜んでいるみたいだよ?」

「そうじゃねえよ。つーか、いつまでルーくん呼んでんだ。いいかげんルーシィって呼べよ」

「えー。いーじゃないか。ルーくん、似合っているよ」

 まともに取り合う気のない目の前の神様に、ルーくんことルーシィは、額に青筋を浮かべる。

 しかし、抗議をして簡単に受け入れてもらえていれば、今こんなに腹を立ててはいないのだ。諦めの溜息一つ、一応抵抗の体だけは取りつつ、本題に話を戻そうと、ルーシィは会話を続ける。

「私はルーシィです。その呼び名で呼ばれては、部下に示しが付きません。

 それよりも、神様。神様が常日頃から真面目に働いていれば、そもそも奇跡なんて必要ないのですよ。奇跡を起こされるのはこれで一体何回目だと思っているのですか……」

 そんなことを言われても、神様はいちいち自分が起こした奇跡の回数など覚えていない。それどころか、急に始まったルーシィの説教に、神様の顔はみるみる不機嫌に変貌していく。

 なぜ人々が喜ぶことをしておいて、怒られなければいけないのか。納得がいかないのだろう。

「あなたの仕事は奇跡を起こすことではなく、人々が奇跡に縋るようになるまで困らないように常日頃から世界を監視し、うまく循環させることなのを理解しておいでですか?

 奇跡は一時しのぎにしか過ぎません。人々の力だけでその境遇を乗り越えられないと、あなたのお父君が生み出した進化と淘汰の機能が意味を失うのですよ。

 というか、奇跡を起こす必要がある状態そのものが、神様、あなたの職務怠慢が引き起こした自体なのです。それを、わかっておいでですか!?」

 ルーシィが真剣に訴えかけるも、気づけば神様は目の前で携帯ゲーム機の電源をつけて遊び始めている。

 ―気付いた瞬間、ルーシィはその携帯ゲーム機を取り上げて地面に叩きつけていた。

―それがヒトの話を聞く態度かおい……」

「ルーくん話が長いじゃないか。あーあ、セーブデータが飛んでなければいいけど」

 悪びれる様子もない神様に、ルーシィははっきりと聞こえる音で舌打ちした。

「……本気で叛逆してやろうかこいつ……」

 神様からは顔を背けつつ、小声でボソリ。その台詞には、本気度が多分に含まれている。

「私は、あなたのお父君からあなたの教育係を任されているのです。言葉が多いのは当然でしょう。というか、あなたがちゃんとすれば、私もここまで長い話をしなくてすむのですが。大体、仕事サボってなにをしてるんですか」

 教育係とはいえ、四六時中神様のそばにいるわけではない。ルーシィは神様の空白時間まで正確に把握しているわけではないのだ。

 聞かれた神様は「今はねぇ」と壁側に設置されている大きなディスプレイを指し示す。そのディスプレイの近くにも、やはり据え置きゲーム機が置かれている。電気は通っているのかと詮索するのは野暮だろうか。

「あっちで地上のゲームを進めているんだよ。なかなか面白いよ。地上の攻略サイト見たら、クリアにかなり時間がかかるらしくて、今すごくやりこんでいるんだよ。他にもマンガ読んだりネトサしたり」

「地上の引きこもりかあんたはっ!」

「引きこもりに偏見持ってないかい? ルーくんもマンガどうだい。オススメを貸してあげるよ。それとも今やってないゲームをやってみるかい?」

 もはや真面目に受け答えするのも億劫になったルーシィは、無言で拳銃を引き抜き、迷うこと無くトリガーを引いた。

 神様の頭上の月桂冠が地面にぽとりと落ちる。―神様の額には小さな氷柱が突き刺さっていた。

 神様は目を大きく見開き、ルーシィに抗議する。

「それ―水鉄砲だろう? どうして氷が出てくるんだい!? おかげで避け損なっただろう!」

「額に氷が刺さろうが腕が一本折れようが脚が一本もげようが、その程度じゃ神様は死なないのですから、細かいことは気にしないでください。教育的指導です。趣味と仕事の時間を逆転するよう努めてくださらなければ、今度は実弾で風穴をあけますよ」

「あ、そろそろドラマの始まる時間だ」

 説教をしている(脅している)傍から神様はテレビの前に移動し始める。

 ルーシィの堪忍袋の緒はそこが限界だった。

 

「神様失礼します。お食事の用意が……」

 執事衣装に身を包んだ、猫っ毛ブロンドの愛くるしい少年が神殿まで神様を呼びに来た。しかし、中の光景を見てそれ以上の言葉は無言で飲み込む。

 神様と自分たち天使のトップたるルーシィ様が盛大に喧嘩をしていたからだ。

「またかー。これはしばらくかかるだろうなー。またレンチンで温め直しかなー?」

 状況を把握した少年は、踵を軸にくるりと反転する。飛び交う銃声を背中に聞きながら、止めるでもなく、困惑するのでもなく、慣れたように少年は雲の庭に溶けていった。

 

「あ、ルーシィ様からの伝言だ。なになに……?

 このお話はフィクションです。登場する神様・天使名等は架空であり、実在の宗教・神話等とは一切関係ありません。

 ……と伝えてくださいだって! 誰にだろうね?」


Twitter アンケート結果


あとがき

はい、ということで「私が書いた文章どれでしょう?」の正解は①でした。
①に投票された正解者様、おめでとうございます!

まず、利き小説とは?というところからおさらいします。
利き小説は、同じお題に沿って書いた文章をそれぞれ主催様に提出し、それぞれの知り合いに「この文章は誰が書いたと思う?」と予想・当ててもらう企画になります。
ちなみに、どうも基本的に主催様以外は誰がどれ書いたかは知らないものらしいので、書き手も自分以外の書き手の予想ができます。

まあ、要するに利き酒の小説バージョンです。

今回のお題は『神様、奇跡なんていらないから』でした。

こういうセリフだと切なる願い系が定番だけど、ネタ被りもしやすそうだなー? いっそもうギャグに走るか。
となったら、ああなっていました。

もう一人くらいギャグに走る人いるかなー?って思ってたんですが、蓋を開けてみたらいませんでしたね。残念!(笑)

他の人がどんな話を書いてくるかもそうですが、今回、なにが楽しかったって、日本語も横文字も和製英語も文化も何も考えずに使えたってことですよね。
縛りがないってめっちゃ楽ですね。時代考証も世界観に沿ってるかとかも考えなくていいんですよ。なんでもありって素晴らしいですね。

ただ、さすがにちょっと遊びすぎたかなー?と思って、最後の文を付け足すという暴挙に至りました。
書き直すという選択肢はめんどくさくてなかった。

あんまり深く考えずに書いていたので、文章の癖とかで結構わかりやすかったですかね?

他のネタとしては「神様、奇跡なんていらないから、天啓ください。仕事が終わらん……」ネタと「神様、奇跡なんていらないからあげ棒」ネタがありました。

1つ目は、仕事で操作しているファイルが一向に更新されなくて残業してるところに、仕事を終えた先輩が様子を見に来て、最終的に編集するファイル違ってね?で終わるものだったんですが、これは内容からバレそうって思って却下しました。

コーディングネタとか書いたらバレるでしょう。

2つ目のからあげ棒は、TVCMで「神様、奇跡なんていらないからあげ棒! 新発売!!」と流れているのを見て、これはどこまでが商品名かと言い合う学生カップルが確かめに行こう!とそのコンビニ行ったら「神様の奇跡すらいらないほどおいしい! New からあげ棒登場!」というPOPを見るという非常にくだらないものでした。

書き出してみてもくっだらねえwww

からあげ棒は提出したのを書いた後に思いついたんですけど、新しく書くのもめんどうだったのでここで供養。

とまあ、そんな感じでした。

主催様、お声がけくださりありがとうございました。
戯れにお付き合いくださった回答者の皆様と、書き手としてご参加くださった皆様にも感謝の意を表します。

コメントを残す

応援する