三、謎の少女・メル - 2

MIND STRONG ADVENTURES ! アルカスの少女

三、謎の少女・メル - 3

そんなことはあったが、まあ結局は何事もなく夜は開け、次の日。

「とりあえず、メルの格好をどうにかしたいわよね」

食事をちゃんと取り、ぐっすり布団で寝たおかげか、今日は布団から出て自力で立っている。そのメルの姿を上から下まで見て、あたしは唸った。

櫛を一応通したものの、ぼさぼさで傷んだ空色の長い髪。前髪も伸び放題でかろうじて片目が髪の隙間から見えている状態だ。一体どのくらいの期間あそこにいたのだろう?

服装は昨日おばちゃんが貸してくれた宿屋の寝間着。大人サイズなので大きく、上だけでワンピースのようになっているが、ぶかぶかだ。袖も当然手が出ていない。

元々着ていた服は泥だらけで汚れが酷かったので、とりあえずおばちゃんが洗ってみるとは言ってくれたが……裾もかなり擦れていたし継続して着るのは難しそうな気がする。

靴は当然なく、今はスリッパをはいている。

「ミナ、入っていいか?」

「いいわよー」

軽く応えると、昨日と同じようにレオンが扉を開けて入ってきた。

「朝飯は?」

「まだよ。それよりメルなんだけど」

あたしはレオンにメルの格好のことを相談する。

「ああ確かに」

話を聞いたレオンはすぐに納得してくれた。

「髪はオレがどうにかできるけど、服はどこかで見繕うしかないだろうな」

「どうにかできるって?」

「ただ長さを調整するだけの散髪なら、できるぞ。気取った髪型したいなら専門の店に行ってくれってな」

なんでもない風に彼はさらりと告げたが、それ結構すごい特技じゃない?

散髪が自分でできる人って、散髪師でもない限りなかなかいないと思うんだけど……。

驚いているあたしの前で、レオンはメルの前に移動し、膝を折る。

「ちょっと触るよ」

断ってから毛先を手に取った。

しばらくメルの髪を観察すると、レオンは「うーん」と唸る。

「これは結構ばっさり切っちゃったほうがいいかもしれないな。メルはそれでもかまわないか?」

レオンが確認を取ると、メルはこくりと頷いた。

「よし、じゃあ朝食前にぱぱっとやるか」

「え、今から?」

「昨日も思ってたけど、御飯食べる時に前髪が邪魔じゃないか?」

ああ、それはあたしも思った。耳にかけてはいたが、それでも落ちてきて邪魔そうにしていたのは覚えている。

「じゃあ、おばちゃんに箒とちりとり借りてくるわ。切った髪はあたしが最後に燃やすから」

髪の毛は下手に残すと、全く知らない所で何かの呪術や魔術研究に使われたりする場合があるので、きっちり処分しておかないといけない。あたしも村で、ねーちゃんに「ちょっと実験したくて」と軽いノリで抜け毛を使われたことがあるので、本当に気をつけたほうがいい。

「ああ、頼む」

言っている傍からレオンはメルを椅子に座らせて、携帯ナイフを取り出している。

一度部屋を出て一階にいる宿屋のおばちゃんに事情を説明する。と、二階の廊下奥に掃除用具入れがあるから、そこにある物を使ってくれていいと教えてくれた。

二階に戻って言われた掃除用具入れから目的のものを持って部屋に戻ると、メルの髪がバッサリ肩くらいの長さに切られていた。

そこからレオンは手際よく、後ろの髪の長さを自然な形に整えていく。

あたしは切り落とされた髪を箒で集めながら、メルの髪型が整えられていく様を横目で見ていた。

うーん、うまい。思わず舌を巻いてしまう。確かに彼の言うとおり「長さを調節している」だけなのだが、それにしたって仕事が早いし、変になっていない。

ぱっぱと後ろを整えてしまうと、もう前髪に取りかかっている。前髪も整えてしまうと最後に布で顔を拭って、切り落とした髪を払った。

「こんなもんでどうだ?」

「うわぁ……。メルかわいい……」

前から覗き込んだ、あたしの第一声がそれだった。

長かった髪は肩で切りそろえられたおかっぱになっているが、それがよく似合っている。さらに、顔がよく見えなかったのが、前髪が短くなったことではっきりと見えるようになった。澄んだ空色のつぶらな瞳が印象的な、まるで人形のように整った顔が愛らしい。

レオンがメルを鏡の前に立たせる。しばらくじーっと鏡の自分を見つめていたメルは、ふいにレオンの方に体ごと向き直り、深々と頭を下げた。

この場合は、恐らく「ありがとうございます」だろう。レオンもそう判断したようで「どういたしまして」と応えていた。

「それじゃあ後片付けして朝飯にするか」

「他にもう落ちてる髪の毛ないわよね?」

ちりとりに集めた髪の毛の山をまとめながら、あたしは床を確認する。レオンもしゃがみこんで確かめてくれたが「大丈夫だろ」と伸びをした。

よし、それじゃあっと。

あたしは窓を開いてまとめた髪を掴めるだけ手に取った。呪文を唱えると、あたしの手の中の髪の束が、ぼっ! と音を立てて燃え始める。それを窓の外で離すと、風に乗って散るとともに、すぐに全て燃え尽きる。

同じことを数回繰り返して全部処分してしまうと、窓を再び閉めて二人に向き直った。

「はい、お待たせ。んじゃ、下行こっか!」

「大したもんだなぁ」

「レオンだってすごいじゃない」

他愛ない会話をしながら道具を戻して、あたしとレオンはメルを連れて下へ降りる。おばちゃんにお礼を述べてから食事を摂りつつ、おばちゃんにメルの服についても確認する。

「ああ、流石に時間が時間だったから、まだ乾いてないんだよねぇ」

頰に片手を添え、少し小首を傾げて眉を八の字にするおばちゃん。

予想していた答えなので、ではどうするかという話へと、自然と移る。

「ミナの魔術で、すぐに乾かせたりとかできないのか?」

レオンの質問にあたしは迷うことなく即答した。

「消し炭になるわよ」

「そうか……使えん……」

むかっ。

気付いた時には、あたしはレオンの前にフォークを突き立てていた。

「ただ燃やす、火を通す、ってのは簡単よ。それが火の精霊の本質だもの。だけど、燃やさずに水分だけ飛ばせ! てのは、食材を燃やさずに、一瞬で乾物に加工しろって言ってるもんなの! いろいろややこしくて、難しいの!」

あたしが、ズズィッ! と上目遣いに迫ると、レオンは引き気味に両手を胸の前に挙げた。

「わ、わかった……。とにかく難しいんだな……」

「わかればいい」

まあ、あたしが知らないだけでどこかにはあるのかもしれないけど、どっちにしろ「そういうことをするには」という現象の理解と、それを構築するための魔術研究が必要になる。さらに、細かい出力調整も最後には必要になるだろう。

ともかく、一朝一夕でするには、ひじょーに難しいということだ。

それに、面白くなさそう。

「仕方ない。あたしが適当に買ってくるから、ここでちょっと待ってて」

「待ってて、ってメルだけじゃなくオレもか?」

「そうだけど、なにか問題ある?」

なぜかレオンに心配そうに確認されて、あたしは小首を傾げる。

レオンは眉を顰めて深刻そうな表情で目線を落とし、ボソリと呟く。

「……さしずめ『はじめてのおつかい』ってやつかなぁ……」

聞こえた瞬間、あたしは机の下で彼の足を躊躇なく踏んづけていた。

「レオン、ケンカ売ってるの? 売ってるわよね? あたしはもう大人だから、子供扱いしないでって言ってるわよね⁇」

怒りを抑えつつも、口元を引きつらせるあたしの前で、レオンは自分の足を抱え込んで心配している。

「——っまえは、なんでいつも無言で暴力を振るってから口で言うんだっ」

「レオンが失礼なこと言うから抗議してるだけじゃない! だいたい『はじめてのおつかい』ならもうとっくに済ましてるわよ!」

「大人だって言うなら、手の前に口で言え! おつかいって、料理が余ったから隣の家の人に分けてきて、なんてのは今回数えないからな。お金を使った買い物のことだからな」

「わかってるし、違うわよ!」

ダンッ——と、あたしが勢い余って思わず立ち上がると、宿屋のおばちゃんが苦笑しながら割って入ってきた。

「お客さん、まあ落ち着いて。他の人に迷惑だよ。剣士の彼もそこは安心なさいよ。ハルベス村の子達のはじめてのおつかいは、この町でちゃんとやっているからさ」

おばちゃんは知っているのか、食後のコーヒーをテーブルに置きながら、レオンに事情を軽く説明し始める。

「大人はちゃんと一回くらいは村の子供連れてきて、お金の価値や使い方を教えているんだよ。あそこの村の子達が最初に何か物を買うとしたら、この町なのさ。お嬢ちゃんもそうだろう?」

「うん、まあ」

あたしはおばちゃんに同意する。その時は、たいした持ち合わせもまだなかったし、野宿に持っていけそうなもの、ということで干し肉あたりを買っていた。

レオンは「へえ」と意外そうな顔をした。

「それに、ハルベス村の子って、たまーに妙に鑑定眼があったりするんだよねぇ。不思議なことに」

不思議なことに、か。一体誰のことをいっているのかはわからないが、そんなこともあるのか。

あたしが他人事のようにミルクを入れたコーヒーを飲んでいると、見知らぬ男のくぐもった笑い声が近くで聞こえた。あたしとレオン、おばちゃんが声の方に振り返る。

「それは、面白い話をききました。そこの赤毛のお嬢ちゃんも鑑定眼をお持ちなんでしょうか」

にこにことしながらあたしたちに近づいてきたその人は、背丈は男の人としては高く見えないが、顔も体も全体的にふっくら大きい。恐らく横の広がりに相殺されて、高く見えないだけだろう。

肌は浅黒く、頭にはターバンを巻き、首と手首から先だけが見える麻の貫頭衣にズボンにブーツ、その上から革のマントを羽織っている。胸元に覗くのは蛇を象った金属のペンダントだ。

その蛇のような逆三角形の瞳が、あたしたちを獲物のように見つめている。

「旅の商人、か?」

男の姿を確認したレオンが、一言尋ねる。

「ええ。私、あちこち旅をしながら商売をしている、ロナウドと申します。服を買うだのどうの、と言葉の方から私の耳に飛び込んできたものですから、つい、ね。そちらの小さなお嬢さんの服をお探しなら、私もいくつか見せられる商品がございます。

そこで、どうでしょう。一つ私とゲームをしませんか?」

そうして男は「どうです?」と両掌を上に向けた状態で肘を軽く曲げ、提案のポーズを取る。

どう、と言われても……ねえ。

「こいつが相場知らずの世間知らずとでも踏んで、話しかけてきたのか? だったらお帰り願おうか」

「え、そうなの? もしかしてゲームとか言ってふっかける気だったの?」

「いや、そう決まったわけじゃないけど、そういう場合もあるってだけだ」

驚くあたしに、レオンは男の方を見ながらあたしを下がらせる。

一方、ロナウドと名乗る商人は困ったように頭を掻きながら、持っていた荷物からいくつか商品を取り出した。

「私はただ、商売と同じくらい面白そうなことが好きなだけですよ。ゲームは簡単なことです。―ああ、すみません。少々テーブルをお借りいたしますね。

ここにいくつか商品を並べて、私がそれらの商品を説明いたします。ただし、一つだけ嘘の説明をいたしますので、お嬢さんはそれを当ててみてください。

それで、あなたの鑑定眼が正しければ、衣類をそちらの言い値でお売りする。もし外れれば、こちらの言い値で購入を考えていただく―まあ、こちらは普通の売買の形ですね。これでどうでしょう?」

ロナウドさんは一通りルールを説明しながら、空いているテーブルにクロスを広げ、その上に商品を丁寧に並べていく。瞬く間にその空間だけが、ブティックへと早変わりした。

「これ、全部メル……この子向けの服?」

あたしはメルを示しながら、並べられた服について確認する。

ロナウドは「もちろん」と肯定した。

ふむ……どれもデザインは悪くないし、質も悪くは見えない。まあ、こちらが負けても普通に売ってくれるとは言ってくれているし、こちらにあまりデメリットはなさそうか。

「わかったわ。受けて立とうじゃない」

あたしは一歩前に出て堂々、自信満々に胸を張る。

それを見たレオンが心配そうに声をかけてくれるので、あたしはウインクを一つ返す。

「あたし、勝負から逃げるの嫌いな上に、負けず嫌いなの♡」

「ふふ、自身の勝利を信じて疑わない、いい目です。では、始めましょうか。

見ていただくのは、三つの商品です。

まずはこの上着。火蜥サラマンダーの皮を舐めして使用しているので、火への耐性は抜群です。暑さにも強いので砂漠越えにはうってつけですね。

こちらの上衣とズボンは上質な絹で仕立てられていてね、着心地も肌触りも、それはもうバツグンの一級品ですよ。

ああ、ブーツもご入用ですかね。それならこちらに牛羚羊ヌーの皮で仕立てた丈夫なものがありますよ。サイズが合えばいいですが」

説明を聞き終えた途端、レオンが渋い顔で「おい」と声を立てる。ロナウドさんはそれを、口に人差し指を当てて咎めた。

「私がゲームをしているのはこちらのお嬢さんです。たとえ答えがわかっても、口にするのはお控えくださいますよう」

「けどなぁ」

レオンは眉間にシワを寄せている。なんだろうか?

まあ、あたしも勝負に水を差されるのは好きじゃないし。

「レオン、なにかは知らないけど、あたしは気にしないから」

あたしからも言うと、レオンは渋々黙ったようだった。

さて、気を取り直して。

ひとつひとつ丁寧に説明してくれたそれらは全て、確かに説明された通りのものっぽく見える。

「商品は手にとって見てもいいの?」

「それはもちろん」

一応許可を得てから、あたしは並べられた商品をそれぞれ触れて確かめる。

うーん、これは……。

「ロナウドさん、だっけ? まさか「一つだけ嘘の説明」が嘘だったりしないわよね?」

「おや、どうしてそのように?」

あたしの確認に問で返す彼の目は、挑戦的で揺らぎない。正解かどうかはともかく、あたしは見て思ったことを彼に伝える。

「まず上着なんだけど、これ、火蜥サラマンダーじゃなくてただの蜥革リザードレザーよね。火蜥革サラマンダーレザーは見たことないけど、これとよく似た蜥革リザードレザーは村の大人が持ってて見たことあるわ。

で、次の絹の服なんだけど、光沢があるから、これはたぶんその通りだと思うの。まあ、光沢性のある動物の毛を使用したものかもしれないけど、肌触りからして、たぶん違うと思うのよね。

最後のブーツだけど、これは牛羚羊ヌーじゃなくて鹿革ディアスキンでしょう? あたしが子供の頃に使ってたのと似てるわ。色合いはよく似ているけど、質が違うし」

しばしの沈黙―ロナウドさんは、こらえきれないとばかりに突然声を上げて笑い出した。それからの拍手。

「いや、おみそれしました。見たことのない素材をはっきり「違う」と断言しきれるその記憶力と自信の強さ。

ええ、その通り。火蜥革サラマンダーレザーなんて滅っっ多に手に入るものではありません。私とて一度も手にしたことはない。あれは砂漠に生息しているものを使用した蜥革リザードレザーです。砂漠の環境に適しているのは本当ですけれどね。

そして絹の服とブーツ。これらはさすがにわかりやすかったですかね。でもまあ、あなたの観察眼﹅﹅﹅は確かに本物のようだ」

ロナウドさんは、なにが楽しいのか、いまだ肩を鳴らしている。そんな彼の態度が気に食わないのか、レオンは片眉をあげながらきつく言葉を投げかける。

「説明の時点で嘘をつくとは、根性悪いな。ミナが気付いたからよかったようなものを」

「少々意地悪が過ぎましたかね?」

レオンは「全くだ」と渋いため息をつく。どうやら彼は、こういうやり方をあまり好いてはいないようだ。あたしはあんま気にしないんだけど。

「レオン、もしかしてわかってたの?」

「見た目の模様が全然違う。火蜥蜴サラマンダーは表面が燃えているから、皮膚が炭色なんだが、磨くときれいな赤土色になるんだ。さらに、燃える炎が映り込んだような独特な模様が出る」

目の前にあるのは茶色に近い光沢のある蜥革リザードレザーだ。赤みはないし、模様も鱗みたいなシワ模様である。

牛羚羊ヌーもそう。もっとグレイブルーに近い色をしているし、あっちは少し光沢が出る」

鹿革ディアスキンは暗く光沢のない茶色だ。先程の蜥革リザードレザーとも違う色をしている。

あたしはポカーンと彼の説明を聞いていた。あたしだけでなく、宿屋のおばちゃんも、ロナウドさんも驚いた目で彼を見ている。

なんというか、随分詳しい……。この時点で嘘が二つあることを見抜いたから、彼はあの時声を上げたのか。

「……これはこれは。とんだ伏兵でございました。お連れの方がそこまでお詳しいとは。

―いいものを見せていただきましたから、お約束どおり、あなた方の言い値で必要な物をお売り致しましょう。そこの小さなお嬢さんに合いそうな服は先程のものと、ここに出ているもので全てですが、まあ、他の商品も見たければどうぞ申し付けください」

ロナウドさんは、どこか嬉しそうに約束の交渉へと場を移していく。

ここで断る理由もないので、少しばかりメルにファッションショーをしてもらい、かなり安い値段で彼女の服を購入することができた。

植物で色濃く黒く染められた長衣ローブに、太ももの出る短い革製のズボン。伸縮性のある布で覆った足は鹿革ディアスキンのブーツを穿き、更に上着には丈夫な蜥革リザードレザー

これが今のメルの服装である。長衣は流石に丈が長かったので、腰のあたりで片側をキュッと結んで長さを調整しているが、他はなかなかだと思っている。

「ありがとう。助かったわ」

「いえいえ。よい旅となることを」

ここであたしは気になっていたことを聞いてみた。

「でも、なんでこんなゲームをしたの? あなたにしたら、かなりの大損だったんじゃ?」

あたしの素朴な疑問に、ロナウドさんは口元をほころばせながら、こう答えてくれた。

「ただのお節介ですよ。そちらの剣士の方が、どうにもお嬢さんを信用しているようで信用なされていないご様子でしたので。それに宿屋のおかみさんが、お嬢さんの村は鑑定眼を養われている方がいると発言されていた。それが本当ならば、お嬢さんの実力を私も垣間見ることができる。そうでなければ、お嬢さんにお勉強代として請求できる。

お値引きしたのは私が楽しませていただいた御礼、とでも受け取っておいてください。この程度で貧窮するほど、貧乏はしておりませんのでね」

ただのお節介で結構な値引きをしてもらったが、それでも懐が痛くならないって……この人どれだけお金を持ってるんだろう。旅の商人って結構儲かるものなんだろうか?

なにはともあれ、どうもあたしのためにこんなことをしてくれたらしい。これは、口で御礼を言うだけですむものだろうか。

「なんだか、そこまで言われちゃうと、居心地悪くなっちゃうんだけど。またどこかで会ったらその時になにか奢らせて?」

というあたしの言葉は、ロナウドさんに「ですからいいんですよ」と柔らかく断られた。それからロナウドさんはレオンの方に体を向ける。

「そちらの剣士のお兄さんも、背伸びする方は見守ってあげませんと。心配のあまりバカにするようなことは慎んだ方がよいかと。まあ、似たような人が知り合いにいますので、気持ちはわかりますけれどね」

「まあ、気をつけるよ。しかし、ミナみたいな知り合いがいるって、なんだかそっちも大変そうだな」

「いえいえ。では、私はこの辺で。おかみさん、失礼いたしました。ご馳走様です」

広げていた商品を荷にまとめ直したロナウドさんは、こちらに一礼、おかみさんに挨拶をすると、食堂から外へ続く扉へと足を向けた。

これでメルの服装もどうにかなったし、無事に外に出ることができる。そうしたら―とそこまで考えてあたしは「あっ!」と声を上げた。

慌ててロナウドさんを引き止める。

「あの、お節介ついでに一つ聞いてもいい? メルのこと、どこかで探している人とか、どのへんで暮らしているのを見たとか、なんか聞いたり見たりしたことない?」

あたしの質問にロナウドさんは、メルの方を見つめてしばし考え込んだが、ゆるく首を横に振った。

「すみませんがそういう話は特には。お力になれず申し訳ありません」

「あ、いえ。ありがとう。ロナウドさんもお気をつけて」

今度こそロナウドさんはぺこりと頭を下げて外へと出ていった。

なんだか騒々しい朝食になってしまったが、まあともかくこれで町に出る準備は整った。これでよーやく行動できる!

レオンとメルに準備はいいか確認をしてから、宿屋のおばちゃんに御礼を告げて、あたし達は町へと繰り出した。

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