一、レイソナルシティ - 3

MIND STRONG ADVENTURES ! エヴィンハルハの天使

一、レイソナルシティ - 4

教えてもらった場所に向かいながら、あたしたちは森に分け入った。村から見て更に東の方角だ。なんでも、昔岩を切り出していた採石場があり、いつも村に来るゴブリンがそこの岩窟にいるようだから、今回もそこにいるのではないか、とのことだった。

行ってダメ元、いなかったら村で張って襲ってきたところを狙うしかない、という話になったので、いればラッキーくらいの気持ちだろうか。

「あの……」

歩いていると、あたしの後ろをついてきているメルが、おずおずと話しかけてくる。

「ほんとうに、わたしもついてきてよかったのですか? あしでまといにしか、ならないような……」

メルは最初、長老のとこで同じような事を言って、残ると言っていたのだ。が、それを連れてきたのはあたしである。

「メル、自分の立場わかってる? いつ魔族が来たって本当はおかしくないんだから、行動は一緒にしてた方がいいでしょ。メル一人を置いていくわけには行かないんだし」

村長のところで言ったこととほぼ同じことを、あたしはもう一度告げる。

「それに、魔術は使って覚えてなんぼ。せっかく精霊魔術を勉強してるんだから、ゴブリンを練習相手にしてみたらいいのよ?」

「でも、こんかいのゴブリンは、ふつうのゴブリンとはちがうんですよね……?」

それでも不安そうに、上目遣いであたしを見るメル。

「まあそこは度胸と根性で。なにも前に出て戦えって言ってるわけじゃなくて、あたしとレオンの後ろから適当に魔術を使ってくれればいいわけで。―あ、レオンちょっと待った」

進むに連れて緑が深くなっていく空間に、あたしの目はふと違和感を捉える。一歩先を行くレオンを呼び止めると、あたしは気になったところの手前でしゃがみこんだ。

目の前の地面の土を軽く除ける―と、その下から格子状に組まれた枝が現れた。その格子の向こうに広がるのは土……ではなく、闇。

「落とし穴⁉」

「みたいね。これ以外にもたぶん仕掛けてあるわ」

あたしは修行時代の癖で、周囲に目を走らせる。とりあえず、ここの斜め左前とその先にある木の根元にたぶん一つずつ落とし穴がある。周囲の木の上にもロープがちらっと見えるから、木の近くには足を引っ掛ける罠が仕掛けてあるだろう。

「見ただけでよくわかるな、お前」

「慣れてるもの」

レオンが舌を巻いているが、小さい頃から引っかかりまくっているので、もはや慣れと勘としか言いようがない。

「こんな罠が仕掛けられてるなんて、村の人たち言ってなかったわよね?」

あたしの確認に、頷くレオンとメル。

「でもゴブリンは、こういう手の込んだ罠なんて思いつくような柄じゃないような……」

ゴブリンは……ねぇ。―とすると。

「ゴブリンって、他の生物とコミュニケーションってとれるの?」

「人の言葉は喋れないけど、人間とコミュニケーションが成り立ってるから、取れないってことはないはずだが」

「ふーん、なるほど。取れないことはない、ねぇ……」

彼は眉を怪訝そうにしながらも、ちゃんと答えてくれる。あたしの質問と呟きに何を思ったのか、更に顔がしかめ面になった。

「おい、まさか―ゴブリン達に入れ知恵してるやつがいる、とか言わないだろうな」

あたしが考えていることに、レオンも気づいたようだ。

「可能性はあるでしょ?」

「ないとは言い切れないが……」

レオンは困ったように後頭をかいた。

「あの、それで。ここからどうやって進まれますか? ワナがありますけど」

メルは道なき森の先を見つめながら、あたしたちに尋ねてくる。

その先に、いまだ岩窟らしきものは見当たらないが、教えられたゴブリンたちの住み処はもう近くだろう。

「採石場跡に向かう直線上に罠があるってことは、少なくともそこに何かがいることは確定よね」

「ああ。高確率でゴブリンだろうな」

うんうん。あとは移動方法だけど、わざわざ罠にハマるのはアホらしいし、罠を避けるのもめんどくさい……となると。

「メル、風の魔術使える?」

「えっ⁉」

振られると思っていなかったのか、メルは驚いた声を上げる。

「風を起こすのはできましたけど、他の術の構築とかは、まだしたことはなくて」

「基礎魔術の魔術構造は理解した?」

「は、はい」

「じゃあさ」

と、あたしは今から使いたい術の理論を告げ、呪文構築ができるか聞いてみた。

「失敗はしてもいいから、できそうだと思ったら構わずやってみて」

最後にそう告げると、メルはしばらく考え込み、呪文を紡ぎ始めた。

空泳風リオトッサ

メルの足がゆっくりだが、地面を離れ、ふわりと体が浮かんだ。

あたしが今メルに教えた魔術は、風の魔術でもかなり初歩で簡単なもの。ただ空中をふよふよと浮くだけのものだ。当然だが、術者の意思によって左に行ったり右に行ったりすることは可能である。

「あ! で、できました! ―わっ⁉」

喜んだ束の間、メルはバランスを崩して地面へと尻餅をついた。風の術を初めて使う時にありがちなことである。

風は瞬間的な発動で終わるものが少ないため、初歩のものでも、術を持続させるための長期的な集中力が必要になるのだ。

「大丈夫? メル。風の術の使用中は急に集中を解いちゃダメよ。今みたいになるから」

「すみません……」

差し出されたレオンの手を取るメルは、眉尻を下げている。

「これから気をつければいいのよ。でも、上出来じゃない! あたしがサポートするから、これで空中を移動するわよ」

この術、初心者のメルがすぐに使えたように、とても簡単な術である。が、一つ欠点があるのだ。

初心者向けってのは、総じて燃費や効率が考えられていないことが多い。

つまり、この術も浮かせる重さに比例して魔力消費が大きくなるため、一人で三人も浮かせようとすると、めちゃくちゃ大変なのだ。

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