二、霧深き森の魔女 - 2

MIND STRONG ADVENTURES ! エヴィンハルハの天使

二、霧深き森の魔女 - 3

途方にくれたあたし達は、その場でとりあえず休憩を取っていた。なに分、森の中の一軒家で幽霊ゴーストに襲われるわ、急に自分がもう一人現れるわ、レオンとメルに至っては、そいつに急に攻撃されたとかで、とにかく疲れた。

「わたしたちをコウゲキしてきたあの人、このモリのことなにかゴゾンジなんでしょうか」

疲れが回復してきたのか、メルがポツリと口を開く。

確かに、この森で初めて出会った、言葉が通じる相手だ。何か知っている可能性はとても高い。ただ、あの様子だと、聞いても素直に答えてくれとはとても思えないが。

「ご存知だったとしても、どこに行ったかもわからないし。また闇雲に歩いて同じ目に遭わされたらたまったもんじゃないし」

「けど、人に会ったってことは、他にもどこかに人がいるかもしれないぞ。なんかそういうの探す魔術とかないのか?」

「目印もないのに探せる魔術なんて知らないわよ」

レオンの意見を却下すると、レオンは残念そうに「そうかー」と呟いている。

「じゃあせめて、この霧くらいどうにかならないか? 前に一回なんかやってたじゃないか」

前に一回……?

しばらく考えて、レオンが初めての盗賊退治のことを言っているのだと思い出す。霧の中の怪物の正体を暴くために、魔術で霧を晴らしたことを言っているのだろう。

「あれは一時的なものだから、やったところで付け焼き刃。全然意味がないわよ。ずっとやってたら、それこそあたしの魔力が尽きちゃうし」

「そっか、ダメなのか……」

「そんな都合よく使えるものじゃないのよ、魔術って」

肩を落とすレオンに、あたしはご愁傷様と心の中で言葉を投げかけておく。口に出しても事態が好転するわけでもないし、なんだか虚しくなるだけな気がするし。

そんな雑談をしている時だった。突然霧の中から灯りが浮かび上がったのだ。それは足音と共に徐々にこちらに近づいてきている。

あたしたちが警戒する中、霧の中から姿を現したのは、白いローブ姿の、小柄な人だった。背はあたしより少し小さいくらいだろうか。その左手には魔力で生み出したと思われる光球が乗っている。霧の中で見えた灯りはこれだったのだ。

背丈はあたしと同じくらいだろうか。フードを目深に被っていて顔はよく見えない。ただ、フードに収まりきっていない毛先の色は、紫だった。

「あ、やっぱり。おケガはありませんか?」

発された声を聞いて、あたしもレオンもメルも、大きく目を見開いた。ついさっき、ハンナと名乗った女性の声と全く同じだったのだ。

「どうかされました? あ、フードを被ったままでは怪しいですよね」

少女はなにを一人納得したのか、空いている手でフードを後ろに押しやった。露わになったフードの下には、先ほどのハンナの顔があった。

「あ、あんた! いけしゃあしゃあと戻ってきたってわけ⁉︎」

「え、ええ⁉︎」

あたしが詰め寄ると、ハンナは目を丸くしてあたしから逃げるように一歩身を引いた。

「な、なんの話……もしかして、既に私の顔を見ているのでしょうか?」

「見ているもなにも、さっき会ったでしょう! あたしの姿でレオンとメルに攻撃なんかしかけて!」

なにを惚けるかと、先程の彼女の悪行を突きつけるが、ハンナは一人考え込んで「なるほど」と納得している。

「あなた方が既に会った私は、あなた方に攻撃をしかけた。間違い無いですね」

「だから、そうだって言ってるでしょ! ていうか、あんた自身がしたことでしょう⁉︎ もう忘れたっていうんじゃないでしょうね!」

「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。それに関しては心当たりがありますので、ご迷惑でなければ私と一緒に来てもらえませんか。―恐らく、見たほうが早いと思いますので」

ハンナは先程の見下した態度とは打って変わり、にこりと柔和に微笑んでいる。敵意は感じられないし、友好的な雰囲気さえある。

同行を求められて、あたしはレオンとメルと顔を見合わせた。

「あの、あなたはこのモリのことを、なにかゴゾンジなのでしょうか?」

メルがハンナに尋ねた。ハンナはメルの方を見て——なぜか、一瞬茫然としたように目を瞠る。しかし、それも一瞬、「ええ、そちらもご説明します」と柔らかく答えていた。

まあ、ここのことも説明してくれるなら、とあたしは代表してハンナの申し出を承諾した。

彼女に連れられて辿り着いた先は、一軒のログハウスだった。二階建てで結構大きい。ハンナは玄関戸を開けて、あたし達を招き入れた。

「どうぞ、お入りください。罠とかは一切ありませんので、どうぞご安心を」

信じていいものか悩むが、入らないことには話が進まないのだろう。仕方なく、その家の中に足を踏み入れる。

中に入ると、そこにはレンガで作られた暖炉と、四人がけのダイニングテーブルが一つある広い部屋だった。部屋の隅には観葉植物と思しき鉢植えが飾られている。他の部屋に続いているのか、外に通じるものとは別の扉が暖炉とは反対側に、一つだけあった。

その扉の向こうから足音が近づいてきたのは、あたしたちが、勧められてダイニングテーブルの席に着いたところだった。

向こう側から勢いよく扉が開かれる。

「アンナ、お帰りなさい! どこ行ってたの?」

笑顔で勢いよく飛び出してきたのは、あたし達を案内してくれたハンナと瓜二つの顔の少女だった。

「あ」

「え」

あたしたちと目が合い、お互い固まる。そういえば今、この彼女ひと、ハンナのことをアンナって……。

「やっぱりあなただったのね、ハンナ」

ハンナ改め、アンナさんの声に、あたしの背中がゾクゾクとする。笑顔は変わらず、声だけが真冬の氷のように冷えているのだ。

ハンナもそれを感じ取ったのか、顔を引きつらせ一歩後ろに引いている。

「え、いや、だって、勝手に入ってきたコイツらが悪いわけで。あたしがやったのは、さっさと出てけ、っていう警告で」

「ハンナ」

アンナさんは、笑顔を崩さずに正真正銘のハンナに、ずずいと詰め寄った。

「この方達に言うことは?」

「ないっ!」

一瞬室内を閃光が走ったかと思えば、次の瞬間にはハンナが口から煙を吐きながら気絶していた。

アンナさんは全く気にすることなく気絶した彼女を抱えて椅子に縛り付けると、改めてあたし達に頭を下げた。

「初めまして。私はアンナ、こちらは不肖の妹、ハンナと申します。この度は皆様に多大なるご迷惑をおかけし、大変申し訳ありません」

アンナさんはご丁寧に挨拶と謝罪をしてくれたけれど。

「あの、それ、大丈夫なのか……?」

レオンが気絶中のハンナを指差しながら聞くのに、あたしとメルも便乗して頷いた。

「魔力耐性が強いですから、あの程度で死んだりすることはありえません。ご安心ください。そのうち気がつきますから」

あたし達の心配をよそに、アンナさんはケロっとしている。その言葉を証明するように、横で気絶していたハンナがピクッと動いた。

「はっ! ちょっとアンナ、いきなりなにすべっ」

ハンナが意識を取り戻した途端、アンナさんは彼女の後頭部を掴み、無理やり頭を下げさせた。

「ちょっ、痛い痛い。せめてロープ解かせでででで」

「先にこの方達に、言うことがあるでしょう」

「だいえんずみまぜんでじだ」

「はい、よく言えました」

ハンナの全く心のこもっていない渋々な謝罪を聞き、アンナさんはようやく彼女の頭から手を離した。

ここまでやられると、こっちの怒りもなんだかどこかに吹き飛んでしまっている。

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