二、霧深き森の魔女 - 4

MIND STRONG ADVENTURES ! エヴィンハルハの天使

二、霧深き森の魔女 - 5

「え」

いきなりなぜか「本物」だとお墨付きをつけられて、あたしは思わず聞き返す。その反応が気に入ったのか、ハンナは得意になって、あたしの指輪を凝視しながらさらに説明を加えてくれた。

「封印が厳重に、何重にもかけられてる。術式にセイラルト族の印があるし、んー……欠けてる部分も視えるから、他にも同じ様な物が存在してるんじゃない? あと、なんだろ……エーテル体と精神アストラル体が少しだけ混ざってる。生物一体分もないから、誰かの記憶や意識の一部が取り込まれてるのかも」

「ちょ、ちょっと待って! なんでそんなことがわかるのよ⁉︎」

今彼女が口にしたのは、全て目で視覚的に捉えることのできない情報だ。今の口ぶりだと、封印の魔術式の構造が丸っと視えていることになるけど、そんなバカな⁉︎

「魔女なんだから、このくらい読解できてトーゼンじゃん」

あたしの慌てた姿をバカにするように(いや確定でしている)、ハンナは足を組みながらあたしを鼻で嘲笑う。

「魔術式や魔法式は、魔女ならある程度視ることができますけど……、ハンナほど深く視える魔女は、そうそういませんよ」

「ちょっと、アンナ!」

「まあ、いいじゃない。ハンナは人間で言う霊能力サイキック持ちでもあるみたいで、相互作用でより深く視えてるのかもしれません」

「アンナってば‼︎ こんな奴らに話すことないじゃない‼︎」

ハンナはアンナさんに抗議しているが、でも、ちょっと待って。さい、きっかー⁉︎ こんな奴がぁ⁉︎

いやそれよりも、魔女ってそんなこともできるわけ⁉︎

「えーと待って、それじゃあアンナさんも指輪の封印を視ることができるってことですか⁉︎」

あたしの質問に、アンナさんはなぜかキョトンとする。それからにこやかに顔を綻ばせた。

「私のことは『アンナ』と呼び捨てにして、敬語はなしで構いませんよ。その方が、ミナさんは話しやすいのではないですか?」

イマソコ⁉︎

斜め上の返答をされ、あたしは戸惑いながらも言葉を返す。

「え、いやでもアンナさんは初対面だし」

「初対面でオレのこと、さん付けしてないじゃないか」

レオンが茶々を入れてくる。あたしは彼の方を見ながら淡々と返答する。

「レオンは第一印象良くなかったし。村への侵入者にさん付けはしないっしょ、普通」

「迷い込んだだけなんだから変な誤解招かないでくれないか……?」

先に口出ししてきたのはレオンだと言ってやりたいが、今はそんな話はお呼びじゃない。

「でもまあ、アンナがそれでいい、って言うなら、そうさせてもらうけど」

アンナはあたしの返事に「ええ」と嬉しそうに頷いた。

「私もその指輪に封印がかけられてるのは視てわかりますし、外側だけならかろうじて読めます。が、それまでです。他の魔女も似たり寄ったりでしょうね。私の妹、すごいでしょう?」

最後に満面の笑みを浮かべるアンナ。散々ハンナの能力のことを話してたのは、妹自慢をしたかっただけかっ! ハンナに比べてしっかりしているように見えるけど、意外と彼女、妹バカなのかも……。

しかし、魔術式が視える、ねぇ。

なんども言うけど、あたしにはこれはただの指輪にしか見えないわけで、そこにかけられた術式などはカケラも視ることができない。確認するまでもなく人間であれば視れる人はいないだろう。あたしの村の大人たちだってそうだ。もしいたとすれば、それは例外とか異能力者とか、そう言う風に呼ばれる。

いま目の前にいる双子の魔女は、あたしから見たら、まさにそう言う存在だった。

「そ、そうね……。それでその、あんたが霊能力者サイキッカーってのは本当なの?」

「人のことをあんたとか言う奴に、答えるギリないしー」

ハンナはふくれっ面でそっぽを向く。んとにコイツ、態度悪いなぁ。

しかし、こういう反抗的な奴ってのは村にもいた。ちょーっと試してみるか。

「そ〜う。霊能力者サイキッカー先生なら、是非とも教えて欲しいことがあったんだけど、聞いてもわからないってんなら、聞くだけ無駄だししょーがないわよねー。あなたも恥かきたくないでしょーし」

効果テキメン! ハンナがジト目であたしを睨みつけている。

「聞き捨てならないじゃない。誰がわからなくて恥かくだって? 弱っちい人間のくせにあたしを上から見てんじゃないわよ!」

あたしのこめかみがピクッと動くが、我慢我慢。誰が弱っちい人間だ!

「じゃあ、質問に答えてくれる?」

「いいじゃない。なによ」

思惑通り乗ってくれたので、あたしは以前立ち寄った武器屋での出来事を彼女に伝える。

「店主は「そういう匂いがする」って言ってたんだけど、意味わかる?」

伝え終わった途端、ハンナがすごく微妙な顔をした。半眼で眉間に皺を寄せ、口は苦虫でも噛んだようなへの字。

天を仰いだりテーブルの上を見つめたり、しばらく黙って考え込んでいたが、不意にアンナに耳打ちをした。

どうしたのだろうか……?

耳打ちをされたアンナの表情も、ハンナと似たような微妙な顔になる。

「あのー……ミナさん。少々お耳を拝借してもよろしいですか?」

アンナに突然ご指名で手招きをされた。あたしは何事だろうかと首を傾げながらもアンナの隣に移動する。

「その、メルさんもレオンさんも、何かしらの霊の念が大量に憑いているみたいです。メルさんの方は恐らく、メルさんに近しい方のもので害はないそうですが、レオンさんの方は特にそういう繋がりは視えないとかで。ただ、本人が気がつかなければ、害はないそうです」

ハンナと同じように小声で耳打ちしてくれたが……なんだか、思った以上にとんでもない話が出てきたぞ……。

「ねえそれ、ほっといて大丈夫なの?」

あたしも同様に、小声でアンナに質問する。

「念なので、霊自体が憑いているわけではありません。エネルギーの残滓みたいなものなので、放っておけば自然消滅します。——それがいつかは、わかりませんけれど」

そうか、知らぬが仏という話か。霊本体じゃないよーと言われても、なんか憑いてるとか言われたらそれはそれで気になるものだし。つまり、あの武器屋のマスターはこの念を『匂い』と表現していたのか。

「どうかしたのか?」

あたしも微妙な表情をしていたのか、レオンが不思議そうに声をかけてくる。えーっと、なんて答えよう……。

「いや……なんでもないわよ。ちょっと表現しにくい匂いなんだけどって話で。まあ、知らない方がいいかもしんない」

「え」

濁音で固まるレオンはなぜか自分の体臭を気にし始める。

はぁ、まあいいか。勘違いしてくれたなら。

しかし、なるほどね。霊の残滓なんて、そういう現場に関わっていないとそんな大量に憑くものじゃない。だから、その多さを視てメルにもそう言ったのか、あのおっちゃん。

「よくわかったわ。ありがとう。あんたを超スゴイ奴ってのは認めてあげるわ」

「だから、なんで上から目線なのさ三流魔術師。スゴイ奴なんだから、あたしに対して敬語使うくらいあっていーんじゃない?」

「いやー、そういう態度の相手に敬意示すとか無理だわー。性格はとことん最低よね、あんた」

あたしとハンナの視線がぶつかり、火花が散る!

それを遮るかのように、レオンが「ところで」と軽く手をあげた。

「さっきの、魔族の動きが妙っていうのは、どういうことだ?」

「え、気づいてなかったの?」

思わず言ってしまった。これにはレオンだけではなくメルも「え?」と呆けた顔であたしを見ている。

「だってアイツ、ダッドはメルを取り戻したかったんでしょ? なのに、あたしに対して本気で相手しなかったし、結構あっさり引いたじゃない。本当にメルを取り戻す気あったのかしら?」

「いくらしばらくメルさんをあなた方に預けておくと言っても、一ヶ月もの間なにも起きなかったことに、疑問を抱かなかったのですか?」

あたしとアンナに立て続けに指摘されたレオンとメルは、考えたことがなかったのか、ポカンとしている。

これはあたしの推測だが、メルをあたしたちに預けるのが目的だったんじゃないだろうか。だとしたら、何のために?―という疑問が出てくるが、そこはまだ、さっぱりわからない。

魔族が魔王を復活させるために、どうしてあたしたちにメルを預ける必要があるのか。そこにどういう繋がりがあるのか。今の時点では全く見えてこない。一体ダッドは何を狙ってるのか……。

「ともかく、そういう事情でしたら、今後私達も同行させていただきます。ハンナ、いいわよね」

ハンナは目を逸らしたまま、不満そうな表情でコクリと頷く。

「同行させていただくって、なんで? 天使様が絶対的主―とかってやつだから?」

「それもありますが、魔王復活なんて話を聞いて、人間だけに任せてはおけないじゃないですか。それに、私達と一緒に旅をすれば屋根のある寝床と、三食温かいご飯がついてきますよ。食材は用意してもらう必要がありますが、宿代は浮きます」

あたしの疑問に、アンナはピースをしながらドヤ顔であたしたちに提案してくる。

三食温かいご飯、はともかく、二人と旅をするだけで屋根のある寝床が付いてくるってのはどういうことだ⁉︎ まさか、家をズリズリ引きずって運んでいくわけでもあるまいに。

アンナに訳を聞くと、彼女はイタズラっぽく笑う。そういう顔をすると、ハンナに似ていて、確かにこの二人は姉妹なんだと実感する。

「皆さんが迷い込んだここは、私たちが生活するための結界の中なんです。まあ、ちょっとした異界とでも思ってください。普通なら入ってこれないはずなんですけど、たまに皆さんみたいに迷い込んでくる方達がいらっしゃるんですよね。出入り口のポイントだけ把握していれば、いつでもどこからでもここに出入りできますので、夜だけここを利用してくださって結構ですよ、という意味です」

彼女、今サラッと説明していたけど、異界ってことは結界の中に別の場所や空間が存在しているって意味のはずなんだけど。人間の魔術師がそれをやろうとしたら、まず魔力が圧倒的に足りないはず。それを補うための魔道具を準備するにしたって、年単位でかかるはずだ。

はっきり言って人間技じゃない。魔女は人よりも基礎魔力容量が大きいと聞くけれど、スケールが違いすぎる。

「そ、そうなの……。それは、安上がりね?」

あたしは唖然としながら言葉を返したが、横に座っているメルが、妙にそわそわとし始める。

「メル、どうしたの?」

「え、いえ……。あの、ここってオバケとか、いませんよね……?」

どうやら、森をさまよった時に遭遇した、謎の家のことを思い出したようだ。

「オバケ……ですか? 存在する 次元層チャンネルが違うので、幽霊ゴーストが迷い込んでくることはないはずですが……。ハンナ、なにかした?」

全員の視線がハンナに集まる。ハンナは冷や汗を流しながら、アンナから視線を逸らした。

「あれもあんたの仕業かっ‼︎」

「気づかない方が悪いんじゃんっ‼︎」

あたしは思わず机を鳴らしながら立ち上がる。ハンナを睨み付けると、ハンナもあたしを睨み返してきた。

一方で、正体がハンナの魔法だとわかったレオンとメルは、ほっと息を吐き出していた。

アンナは「全くこの子は」とため息をつきながら、軽くハンナの後ろ頭をはたいた。

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