二、霧深き森の魔女 - 6

MIND STRONG ADVENTURES ! エヴィンハルハの天使

二、霧深き森の魔女 - 7

明けて次の日。昨夜は、甘みとコクのある美味しいクリームシチューをご馳走になったが、まさか彼女たちの家で生の火蜥サラマンダーを見れるとは思っていなかった。

ペットの餌やりだというハンナについていったら、全身燃えている大きなトカゲがいたものだから、驚いて不甲斐なくも腰を抜かすところだったのだ。

当然、火蜥蜴サラマンダーを見た、生き物好きのレオンのはしゃぎっぷりと言ったら説明するまでもなかろう。火蜥サラマンダーをペットにするって、やっぱりやることのスケールが違いすぎる……。

とまあ、そんな一夜を過ごした今朝、アンナとハンナに案内されてあたしたちは森の中を歩いていた。

「ここよ。アンナ」

ハンナの合図で全員が足を止める。

「あ、確かに抜けた後があるわね」

二人は空中を見つめて何か納得し合っているが、あたしには何も見えない。二人には何が見えているんだろう。

あたしが疑問に思っているのも束の間、二人が私たちに振り返る。

「それでは、結界から移動しますから、少々身構えてください」

言うが早いか、視界が軽く歪む——元に戻る頃には、あたしたちはあのゴブリンの群に囲まれていた。

「あーそうそう。コイツらコイツら」

ゴブリンを見ながら呑気にそう発言しているのはハンナである。

「ギギーギィ」

片手を上げながらゴブリン達に話しかけると、ゴブリン達も多少バラツキながらもハンナに似たような言葉を返していた。

「今なんて言ったんだ?」

「久しぶりー的な、そんな挨拶」

ゴブリン語に興味があるのか、気も浮き気味にレオンが尋ねると、ハンナが珍しく素直に教えてくれる。昨日アンナにこっぴどく怒られていたので懲りたのかもしれない。

「ギギーギィギギ、ギーギー」

「ギー?」

「ギィギィ」

「ギ」

ハンナが身振り手振りも交えてゴブリン達と会話をしているが、やっぱりさっぱり何を言っているのかはわからない。

話をしていたゴブリン達の数人が小走りにどこかに行ったかと思うと、他の場所にいたゴブリンを連れて戻ってくる。その数、三十匹はいるだろうか。

「ギギギィギ?」

全員戻ってきたところでまたハンナがなにか話しかけた。

「ギギ」

あ、なんか頷いた。それを確認したハンナが、さらにゴブリンに対して話しかけると、今度はゴブリン達が手を繋ぎ始める。

ゴブリン達が手を繋ぎ終えた頃を見計らい、ハンナが目の前にいるゴブリンの額に指を当てた。

「イ・レイリーズ」

ハンナの指先に魔法陣が一瞬浮かんで消える。それは連鎖的に手を繋いだゴブリン達に伝わり、彼らの額に浮かんでは消えていった。

一拍の沈黙の後、ゴブリン達が急に落ち着きなく騒がしくなる。あたし達を見るなり武器を構えて威嚇し始めたのだ。

「なにしたの?」

「あたしと出会ってからの記憶を消しただけ。向こうからしたら、いきなり目の前に知らない奴らがいたからビックリしてんじゃない?」

あたしが聞けば、これまた素直に教えてくれる。

「ギギーギ、ギ、ギーギギィ。ギギギー」

両手で宥める仕草をしてから、あらぬ方向をビシッと差すハンナ。更に手近なゴブリンに手をかざすと、急にゴブリンが火柱に包まれた! 火が消えた後には黒焦げになって倒れるゴブリン。

「ギギギィ?」

仲間の姿を指し示しながらハンナは何かを問いかける。途端! 動揺した他のゴブリン達は、一斉にハンナが指し示した方向へと走り始めた!

瞬く間にゴブリン達の姿が目の前から消え、残ったのは黒焦げになって倒れているゴブリンだけとなる。そのゴブリンも、スゥッと空気に溶けるようにして、消えた。

「はい、終わり」

「……見事な手際で」

「ふふん、でしょーう?」

胸を張り、鼻を高くするハンナに対してあたしがムッとする前に、アンナが彼女の後ろ頭を叩いた。

「はいはい。調子に乗らないの」

釘を刺されたハンナは、ムスッとそっぽを向く。

「ミナさん、あのヤかれたゴブリンって……」

「たぶん、幻でしょ」

メルの質問に、あたしは迷うことなく答える。

あんだけいれば、いきなり一匹増えててもわからない。が、まあちゃんと見てると違和感は存在する。見ていて直感でなんか増えたと思ったので間違いないだろう。

「そうですよ。安心してください」

「やっぱりそうなんですね。よかった」

アンナにも肯定されて、メルはほっと息を吐き出している。

「やっぱり、ってことは、メルも薄々わかってたの?」

「はい。ホノオがきえたあとのゴブリンになにかイワカンをかんじたので。不安でしたけど、マボロシと聞いてあんしんしました」

嬉しそうに答えてくれたメルの頭を、あたしはなんとなく撫でる。メルは困惑したようにあたしを見上げた。

「あの、ミナさん?」

「メルもちゃんと成長してるなーと思って」

魔術をちゃんと勉強したのはここ一ヶ月だというのに、幻覚も感じ取れるようになるとは大したものだとあたしは思う。あたしが幻術を幻術だと認識できるようになるまで、魔術を習い始めてから一年はかかっている。これも天使族の血が関与しているのだろうか。

それはともかく、この後のことを相談するため、あたしはレオンに声を掛ける。

「ゴブリンは追い払ったけど、どうすればいい? レオン」

「まずは村に戻って報告。数日はゴブリン達が戻ってこないか見回りをさせてもらって、それから街に戻るのがいいだろうな」

ふむふむ。こういうのは事後経過もちゃんと確認するもんなのね。

「わかったわ。それでいきましょう」

レオンの提案に異論はなかったので、あたし達は一度村へと戻る。アンナとハンナは。最初にいなかった人達がいると都合が悪いだろうから、と一度村の外で別れた。たぶん、例の彼女達の空間にいるのだろう。主に申し出たのはアンナだが、もしかしたら主原因のハンナを庇うためだったのかもしれない。あたしも説明が面倒なので、そっちの方が都合が良かったけど。

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