ただいま見参! 想起録 第二話

序章

時は戦国の世。多くの武士が覇権を争い、戦を繰り広げていた時代である。

山の中、一人の少年がうろうろと頼りなさげに道無き道を歩いていた。周りの木々では、それをあざ笑うかのように蝉達がずっと大合唱をしている。

全身黒尽くめの少年は、立ち止まって周りの木々を眺めては唸って歩き出し、また立ち止まって周囲を見渡しては唸って歩き出す―と、先程からそればかりを繰り返している。

山の木々に日差しは遮られ、森の中は過ごしやすいくらい涼しいはずなのに、動き回っているせいか少年は汗をだらだらと流していた。歩くたびにぼたぼたと汗が滴り落ちる。

歩いては周りを確かめ、歩いては―という動作を何十回も繰り返していくうちに、少年の耳は水の流れる音を聴き止めた。どこか近くに川があるのだ。

いい加減喉が渇いてきていたので水分補給をしようと思いつき、少年は音を頼りに歩き始めた。

しばらく歩いて行くとだんだんと音が大きくなってくる。それと同時に、不自然に水のはねる音も耳に届き始めた。

誰か先客がいるのだろうかと、彼は少し警戒しながら手近な木の影にそっと身を隠して川の方を覗き見る。

そうして少年は川にある姿を見て、息を呑んだ。

―そこに、天女がいた。

山の中に、片側は少し高い崖となっている渓谷がある。反対側はゴツゴツと丸まった石が転がってはいるがゆるやかな岸辺となっており、こちら側からなら人も川に出入りできる。岸から崖の方に進んでいくとその川底は徐々に深くなっていき、一番深い所は成人男性の肩ほどの深さはありそうだ。水は浅瀬であれば底も見える程澄んだ色をキラキラと輝かせており、そこまで奥にいかなければ、水浴びもできる。

そこで一人の女性がまさしく水浴びをしようとしていた。高い位置で結った髪の紐を解いて背に流し、着物の帯に手をかける。帯はそのまま畳んで濡れないところに置いておき、着物は洗うためにそのまま持って川に入る。

まずバシャバシャと着物を川の水で手洗いする。そこまで汚れているとは思っていないが、念入りに手揉み洗いをしていく。大体要所を洗い終えると、ぱんっ、と伸ばして近くの木の枝に着物が飛ばないように引っ掛けた。

今は夏だ。森の中なので日陰になってしまうが、しばらく干しておけばすぐに乾くだろう。

そうして今度は川の中に座り込み、決して黒とは言えない、色の薄い自分の髪を手櫛で洗い始めた。

微かに後ろから音が聞こえたのはその時である。髪に指を通したまま、彼女は鳥でも来たのかと肩越しに音のした方を振り返る。

そこには予想と反して、じっ、と自分のほうを見つめる一人の少年がいた。

三拍程の沈黙がその場に降りる。

状況を理解したしずかは、あらん限りの声で悲鳴を上げた。

×閉じる

ただいま見参!

想起録 第二話

  1. 序章
  2. 終章
  3. あとがき