ただいま見参! 口はしあわせの元

一、飛んで火にいる少年と追い剥ぎ少女 - 1

陽が傾き、空は赤く燃えている。森は影を一層落とし、赤い顔をしていた。

「参ったなぁ……」

自分が今どこにいるのかがわからない。目の前を流れる川を見つめながら今年十二となった葉助ようすけは途方に暮れていた。

今日は師匠に連れられて山で薬草やら山菜やらをみんなで採っていた。

途中で土に妙なものが落ちているのに気がつき拾ってみたら、金色の粒―たぶんこれが砂金というやつだろう―だった。

 みんなに知らせようかとも思ったが、少し離れたところで盛り上がっていたのでとりあえずやめたのだ。この時、水を差してでも声をかければ良かったのかもしれない。が、後の祭りである。

さらに少し離れたところにも同じものが落ちており、どこまで続いているのか、その先に砂金の取れる場所でもあるのかと、もしあったらそれを教えるのもいいな―なんて甘く考えながらついつい追ってしまったら戻れなくなっていた。

どこかで逸れたのか道を間違えたのか、気がついたら同じ場所をぐるぐると回っていたのだ。

なんとか川には出られたがそこからの方向がわからない。今頃自分の姿がなくて妹が泣いているかもしれない。弱った。

足腰を鍛えているとはいえさすがに歩き疲れて、ため息をつきながらしゃがみこむ。山菜を入れた小さな籠は横に下ろした。

「あんた、どうしたん?」

突然背後から声をかけられ、葉助はビクつきながらも後ろを振り返る。

同い年くらいの子が自分を見下ろしていた。長い黒髪はボサボサ、衣もずいぶん汚れている。

「うち、こんねぎにスんでるん」

「……道に、迷っちゃって」

「おとうはんとおかあはんは? イッショなん?」

その子の問いに葉助は首を横にふるふると振った。

途端、その子は笑顔を壊し、大きく舌打ちをする。

「キョウはハズレか。まあ、イチオーきいとくか」

口調も態度もガラッと変わる。なんだかイライラしているようだ。

「ヒンソウそやしキタイしてへんけど、カネメんもん、ゼンブだしな」

「は⁉」

葉助は驚いて立ち上がる。が、その時には既に喉元に寸鉄を当てられていた。

「さっさとしな。カッキるで」

自分が手を出すよりも恐らく子供のほうが速い。しかし金目のものと言われてもさっき拾った砂金くらいしか彼は手持ちがない。

「ああ、あんたがモっとるサキンはもともとうちんもんやからな」

葉助が差し出そうとした砂金をもぎ取るように受け取った子供は、驚くことにそう告げる。それから葉助の格好を上から下までじっくり値踏みした。

今日の彼は山菜採りに来ていたとあって、小袖に裁付袴たっつけばかま脚絆きゃはんという出で立ちである。

「なんもモってへんなら、そんジョウイでええや。ほらヌげ」

言うが早いか突きつけられた寸鉄の代わりに襟元を強く引っ張られたものだから、葉助は驚いて後ずさる。

しかし背後は川。すぐに退がれなくなる。

「テイコウすんな! ハげへんやろ!」

「獲られたら寒いじゃないか! もう夜になるんだぞ!」

「ハダコソデきたはるんやからへっちゃらやろーが!」

しばらく取っ組み合いが続いたが、数分後には子供が葉助の小袖に勝ち誇って袖を通していた。

肌小袖一枚に裁付袴姿となった葉助は肌小袖の襟元を直しながら不機嫌に問いただす。

「だいたい、君はなんなのさ。こんなことして」

「あ? ここまでされてわかんへんのか? オイハギや。みんなうちんことそないヨんでんで」

自分は追い剥ぎだと名乗った子供は「それより」とすぐに話題を変えてくる。

「おめーイエどっちだ」

「なんでそんなこと」

今あんなことをされたばかりだ。当然葉助は警戒した。

「デアいガシラにイうたやろう。こんねぎスんでるって。トチはくわしーぞ」

「場所は言えないし、こっからの方向がわかんないから土地が詳しくっても」

「じゃ、ついてこい」

と、言うが早いか子供はどこかに向かって歩き出す。

ついていったら自分は人買いにでも売られるんじゃないだろうか……と不安がよぎり、葉助はついていくのを渋る。

「なにしいや! こんあたりはオオカミやクマがデるんや! シにたいんか!」

野宿で食いしのぐことは彼にもできるが、狼や熊に遭遇したらさすがにひとたまりもない。

葉助は慌てて籠を掴んで子供についていった。

着いたのは、今にも崩れそうな、とりあえず雨風は凌げそうというあばら家だった。

不躾ぶしつけにキョロキョロと観察している葉助の横で、子供がたきぎに火をつける。しばらくして火種の火が行き渡ったのか、室内が明るく暖かみを帯びてきた。

「そんへんテキトウにスわれ」

葉助は言われるがまま、籠を置いて腰を下ろす。もうクタクタだ。

「あ、そうだ。山菜とかは追い剥ぎしないの?」

「べべんのほうがたけえ」

葉助の問は一蹴される。籠の中を見ながら「こんなに美味しいのになぁ」と考えたらお腹がぐぅと主張した。

「夕餉……」

現実問題を思い出して葉助は膝に顔を埋めて長い溜息をついた。

「クイモンはやれへんよ。コワさなけりゃドウグはカッテにつこうてええけど」

干し肉を食いちぎりながら子供に言われたその言葉が彼に追い打ちをかける。

彼はもう横になりたい気分になった。

しかしせっかく採った山菜もあるし、自分で作るなら食べ物に何か入れられる不安もないかと思い直し、彼は立ち上がった。

かと言って、そんなに道具があるというわけでもなく、結局鍋に湯を沸かして茹でた山菜を頂いた。

食べ終えた頃になると外はもうすっかり暗くなっている。それだけの時間が経っているのに、このあばら家に誰かが帰ってくる様子は全く無い。

「君、親御さんは?」

「そないもん、とっくんムカシにいなくなった」

「ああ、じゃあ僕と一緒だ。だから追い剥ぎなんてしてるのか」

一緒と言われて子供は怪訝な顔をする。

「僕もとっくの昔に親なんていなくなったよ」

葉助の補足になにを思ったのか考えたのか、特になにも踏み込まれず「ふーん」とだけ相槌を打たれた。

「そんじゃあおめーサガしにクるヒトとかおんのか?」

「いるよ」

「ほんならええわ」

子供の不思議な質問に葉助は首を傾げるが、お腹も多少膨れてか疲れからか、うとうとと眠くなり始めた。

そんな葉助に、子供の鬱陶しそうな声が届く。

「さあクったらとっととネよし。ウンがよきゃアスにはムカえがくるさ。これイジョウなんもせんからネろネろ」

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