一、飛んで火にいる少年と追い剥ぎ少女 - 2

ただいま見参! 口はしあわせの元

二、キッカケは一期一会 - 1

最近気づいたのです。定期的にうちの店に寄ってくれる殿方がいらっしゃることに。

わたしが働いているのは安土城のお膝元にある掛け茶屋。と言っても城下ではなく、京と安土を繋ぐ街道の、安土に近い場所に、旅人の一休みの場としてあるのです。

外に出て空を望めば遠くに立派な安土城を望めると旅人の方には人気なんですよ。

もちろん、わたしや他の子がいれるお茶や店主と奥様が作られる甘味も美味しいって喜ばれてるんですから!

そんなこんなで、旅人の休憩所に、近所の人の憩いの場にと使われるこの茶店ですが、一期一会の旅人が頻繁に利用されることは珍しいのです。

前も来ていたなーと思ってから「あれ?」と気づいたのです。

そのことを一緒に働いている子に話したらその子も同じ人に思い至ったので「誰か目当ての子でもいたりして」なんて冗談で話して裏で盛り上がってしまいました。

そんな話をした後だったのでわたしがまた来るだろうか、次はいつ来るだろうかとその人のことを考えていると、店の外から「すみません」と声がかかります。

噂をすれば、ほら! 彼である。やっぱりまた来た!

「いらっしゃいませ! お茶とお団子ですか? それとも今日はお煎餅にします?」

挨拶をしながらわたしは彼の顔を見る。

やや明るめの黒髪にしゃんとした旅姿。なにより彼、近所の男どもより格好イイ!

この間その子と話が盛り上がってしまったのもそこが理由だったりするんですね、えへへ。

ただ、格好や着物の質から彼はお武家さんと推測しています。わたしたち庶民とは違う世界の方なんですよねーたぶん。

わたしの挨拶に彼は少しだけ目を大きくしてから「お茶とお煎餅をお願いします」とわたしに笑いかけてくる(ように見えました)。

「かしこまりました。お掛けになってお待ちください」

わたしは一度中に引っ込み、注文されたものを用意して彼の元に舞い戻る。

「お待たせしました! お兄さん、よくうちを利用されてますよね?」

お茶と甘味を席に移しながら、私は気になっていたことを聞いてみました。

「ここのお茶と甘味が美味しいからついつい足を運んでしまうんですよ」

とはにかみながら返される。

思わずお茶を置く手が震えた。……お茶をいれるのはもっぱらわたしなんです。

「そうなんですか。どうぞこれからもご贔屓にお願いします!」

わたしは内心の動揺を笑顔で取り繕ってそそくさと彼から離れました。

深呼吸を一つするとぐるぐると今の会話が回り始めます。

そ、それはなに⁉ わたしのいれるお茶が美味しいぜ⁉ いやいやお菓子はおやっさんですもん! 違いますよねー‼

などと一人で内心きゃーきゃー言っていたら、もう一人の子が休憩から戻って来ました。

今の出来事をすぐに教えてあげたいですが、彼はまだ店を離れていません。我慢ですよ、わたし!

「なにニヤニヤしてるのー?」なんて聞かれても「なんでもないよー」と誤魔化しておくのです。

彼が最初に訪れたのは秋の終わり頃だったでしょうか。もうすぐ雪が降るか降らないかという時期だったのは覚えています。

なにせもう空気が冷たかったのですから。

それからは大体一月に一、二回の間隔で来られるようになったと思います。多いときは三回も来られた月があったような。

近所の人以外がこうして足を運んでくださるのは本当に珍しいので覚えてしまうわけですよね。

次に彼がお店に来たのは年が明け、春半ばという頃でした。寒さも和らぎ暖かくなって来た頃です。

なんと彼は、一人ではなく大勢でうちの店を訪れたのです。彼を含めて男二人、女二人の団体様です。

男の方はまあまあな顔立ちですが、彼よりは背が低いです。お連れの女性の方とあまり差はないように見られます。

女性の方は、片や黒髪、片ややけた茶髪。茶髪の方はそこそこ見目がよく見えます。わ、わたしと同じくらいですかね!(見栄)

みなさん、彼と同じく旅装姿です。

―うう……女連れ……。お偉い方の逢引きを見てしまった気分になってしまいました。

そうですよね。彼みたいに格好イイ人に、おまけに武家の方に伴侶がいないわけないですよね。立派なお年に見えますし。

「ここ? 葉助が言ってた茶店さんって」

「そうそう。たぶん由利好きなんじゃいかな、ここの甘味」

ユリさんというようです。仲よさそうですし、明らかにできているじゃないですかぁ……くすん。

ユリさんは「楽しみ」と笑顔で応えられます。会話の途切れる頃合いを見計らい、わたしはご注文の伺いに赴きます。

「いらっしゃいませ。今日は大勢で来られたんですね。ご友人ですか?」

「ええ。ここの話をしたら行ってみたいというので連れて来たんです」

と、彼はいつも通りに会話をしてくれました。

「それではお品書きをお渡ししますのでごゆっくりしていってください。ご注文が決まりましたら伺いますので声をかけてください。いまお茶をお持ちしますね」

わたしはテキパキと彼らを卓席に案内し、お連れの方々にお品書きを手渡すと、お茶を準備するために奥へと引っ込んだ。

しかし気になる。ついつい聞き耳をたてるとすぐに会話が耳に入ってきた。

「お兄ちゃんの知り合い?」

「うん、ここの茶汲み娘さんみたいだよ。寄るといつも会うんだ」

お、おにいちゃん⁉ ま、まさかどちらかが彼の妹さん⁉

いえ、先ほど彼を名前で呼ばれていた黒髪の女性はユリさんと呼ばれてましたから、茶髪の女性がそうですね!

おお、ということはもしかしたら本当にご友人同士でそういう間柄ではないという可能性も……いえいえ、まだ油断はできません。

―そういえばユリさん、彼のことなんて呼ばれてましたっけ?

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