四、妖精の協力者 - 1

天空の喪失 ベルマークへの帰路

妖精の協力者

 足元に気をつけながら近づいていくと、光は少しずつ大きくなり最終的に手のひらサイズの大きさになり、不思議なことにその光は何もない空間に浮いていた。光を覗き込み、二人は声をなくして固まった。

―花?」

―が光ってる、わよね?」

 状況を理解しても、困惑した声しか出ない。

 光の発生源は花だった。と言っても、咲いている花ではなくて蕾だ。茎すらなく、蕾だけが空に浮いて発光していのだ。その非現実的な不思議な光景に、彼らは言葉をなくして呆然とそれを眺めるだけである。

「どうするの? これ」

「どうするって……」

 彼女もどうしていいのかわからないのだろうが、テイルも聞かれたところでどうしていいのか当然わからない。そもそも、これが何かも彼は知らない。

 すると、突然光が一際強くなり、蕾がふわりと開いた。

 驚いて二人は後ろに遠のいた。

「な、何だ?」

 固唾を呑んでその光景を眺めていると、甲高い声で「んー」と伸びをする声が聞こえてきた。二人は思わずお互いの顔を見合わせる。彼女にも聞こえたようで、どうやら聞き間違いではないらしい。

 再びさっきと同じ声で「あーよく寝た」と声が聞こえた。それは、たぶん、間違いなく今開いたばかりの花の中からで、二人は恐る恐るその中を覗きこむ。

「……何だ、コレ?」

 テイルはその中にいたものを見て何とか声を出せたが、レイラはそろそろ脳がオーバーヒート気味なのか、信じられないという表情で首を左右にぶんぶん振っている。

 二人が見た花の中には、人がいたのだ。それも親指サイズくらいの小さい人だ。更にいうと、背中にトンボのような翅が四枚左右対称に付いているから、正確には人とも違うようだ。

 雌しべをクッションに座っていたそれは、二人に気づいて顔を上げる。

「あなたたち、なに?」

 さっき聞いた甲高い声が訪ねてきて、二人は音を立てて固まった。

「あら?」

 返事がなくてソレは首を傾げる。ヨイショと立ち上がると、そのまま背中の翅を使ってふわりと浮かび上がる。

「ちょっと、聞いてる?」

 二人の目線まで浮かび上がると、ソレはもう一度声をかけた。が、二人はソレを凝視したまま固まっている。

「こらぁ!!」

 怒鳴ると、ソレはテイルの鼻に軽く蹴りを入れた。

「あだっ」

 テイルが上げた悲鳴で二人は我に返ったらしく、レイラは素早くテイルの後ろに隠れ、テイルは鼻をさすりながら後ずさりしている。

「あんたたち! 人の話、聞いてるの!?」

 二人の顔を交互に見る度に後ろのポニーテールが小さく揺れるのが見て取れる。

「ば、化け物―っ!?」

「はあっ!?」

 テイルが思わず口走った単語に、ソレは過敏に反応してもう一発テイルの鼻頭を蹴っ飛ばした。

「しっつれいねー。誰が化け物よ。見て分かんないの!?」

 腰に手を当ててソレは不機嫌そうに耳に来る甲高い声を上げる。二人は同時に首を左右に振った。

「少なくともオレが今まで見てきた生き物の中にはいないっ」

 ソレは片眉を上げて「ふうん」と腕を組んだ。

「じゃあ言うけど、あたしは妖精よ。名前はリィ。わかった? あたしは、よ・う・せ・い! いくらなんでも妖精くらい知ってるでしょ?」

 偉そうに言うソレに―確かリィと名乗っていた―対して、二人は無言で背中を向けてしゃがみ込み、ヒソヒソと小声で話し始めた。

「なあ、オレ知らないんだけど、レイラさん知ってる?」

「残念だけど、私も知らないの。ヨウセイって生き物の種族名よね、たぶん」

「そうだと思うけど、アレに似てる生き物見たことある? オレねえよ、あんな小さくて人と話せるやつなんて」

「私だってないわよっ。じゃあアレ結局何なのって話になるし……」

「だぁから妖精だって言ってるじゃん」

 間。

『うわぁぁあああっ!?』

 突然入り込んできた甲高いその声に、二人は目の前にリィが移動しているのに気づいて尻もちをついた。

「あのねぇ、あたしはれっきとしたこの世界の生き物よ! 童話とかに出てくるでしょ? 妖精は!」

 リィの主張に二人は「知らない知らない」と首も手も振って完全否定した。

「はあー? 童話に出てこないの? そんなわけ……」

 リィが疑わしげに見上げてくるので、テイルは一応言葉で確認を取る。

「レイラさん、ヨウセイが出てくる話知ってるか?」

 レイラは首を横に振る。

「いいえ。テイルは?」

 テイルも同様に首を横に振った。

「ウソッ! 童話に出てくるわよ! 『眠れる森の姫』とか『ピーターパン』とか!」

 リィは納得がいかないのか、空中で手足をジタバタさせながら抗議している。しかし、知らないものは知らないので二人はどうしようもない。

「えっと、その……知らなくてごめんなさい。間違いなく、この世界に存在する生き物、なのよね?」

 少し落ち着いてきたのか、レイラがテイルに隠れながら言葉をかけてみた。

 すると、リィは嬉しそうに彼女の目の前まですぅっと移動する。

「そうよ、そうなの! 幻でもなんでもなくて、あなた達人間と同じように生きてる生き物よっ!」

「ヨウセイって文字がわからないのだけど、教えてもらえる?」

「お安いご用よっ!」

 レイラに一つの生き物として扱ってもらえたのがよほど嬉しいのか、リィは先程よりも高い声でキーキーと声を上げる。それがテイルには少し耳障りになってきた。

 リィはすっと空中に指を伸ばすとすっと線を書いていく。指が走った後には光の筋が残り、空中に文字が浮かび上がる。

「妖……精。妖精って書くのね。ありがとう」

「いいのいいの。ねっ、あなたの名前は? なにっ!?」

「わ、私ですか? レイラ=ウェイズ=ミズィアムと言います」

 レイラが勢いに負けて名乗ると、リィの目が大きく見開かれた。しかし、それも一瞬のこと、すぐに先程の太陽のような笑顔に戻る。

「レイラっていうのね。あたしはさっきも言ったけどリィって言うの。よろしくっ。―ところで、レイラはいつまでひっついてるの?」

『へ―?』

 にたっと笑いながら小首を傾げたリィの言葉に、二人はお互いの状況をよく見てみた。

 テイルがリィに相対していて、レイラがその背中をギュッと固く握ってくっついている。

「あっそのっ」

 気づいたレイラが顔を赤くしてパッと手を離した。おずおずと彼の隣に移動する。

「もしかしてあたしお邪魔だったー?」

「握りつぶしていいかしら? 妖精さん―」

「やーねー。ちょおっとからかっただけじゃない。レイラってばかたーい」

 レイラの額に青筋が浮かぶ。その横でテイルが「まあまあ」と落ち着かせるように声をかけた。

「ま、いいわ。あのね、レイラ。あたしのご主人様になってくれる? というか、勝手についてくね、マスター!」

―は?」

 唐突な言葉に、レイラは再び思考が停止した。代わりにテイルがその意味を詳しく尋ねる。

「マスターって、どういうことだ?」

「あんたに話す義理ないけど」

「ぐっ……レイラさんが理解できなくて聞きたがってるんだけど」

「あたしみたいな妖精は国を出たら主人となる人間を決めて、人に仕えるの。そうすることで妖精として修行を積むのよ。そうするとね、魔力が増してより人に近い姿形を取れるようになるの!」

「なんで人?」

「人に近い姿を取れるっていうのはー、それだけ人と対等になれるというか、妖精としての地位や名声を得られるというかー、つまりそういうことなんですよー」

「ふーん。つーか、ヨウセイにも国ってあるんだ」

「あんた今馬鹿にしたでしょ」

 もう一発鼻を蹴られそうになるが。さすがに今度はそれを避けた。

「してないって。それで、修行するために仕える人間をレイラさんに決めたってことでいいのか?」

「そうだけど。ところであんたは何? マスターの下僕かなにか?」

「はあっ!?」

 今度はテイルが素っ頓狂な声を上げた。

「誰が下僕だ! オレは普通の一般市民だ。ベルマークまで彼女をちゃんと送り届けるために今は同行してるけど、それが済んだらオレはカーナに戻るんだ! だから、オレは下僕じゃない!」

 テイルは一生懸命自己主張するが、リィはそれを

「じゃあ、あたしの下僕にするわ♪」

 と一刀両断した。

「おい、お前なぁ……」

「何よ下僕」

「オレの名前はテイルだ。テイル=ブライズ」

「あっそ、じゃあティルね」

「お前、オレには随分態度が悪くないか?」

「だって、下僕だし」

「二人とも」

 言い合いを続けそうな二人の間に、レイラが割って入って応酬を止める。

「その辺で。リィ、とりあえず事情はわかったけれど、私でいいの?」

「もちろんです、マスター! あたしのこと理解しようとしてくれたし、マスターはいい人だわっ!」

 リィは嬉しそうに空を飛び回る。

「そう。それなら、そのマスターって呼び方はやめてもらえないかしら。名前でいいから」

「レイラ、様?」

「様もいらないわ。その方が、気が楽なの」

「レイラ、でいいのね」

 リィがレイラを覗きこむように確認する。レイラは「うん」と頷いた。

「了解です、レイラ! これからお側に仕えさせていただきますが、よろしくお願いしまっす!」

「こちらこそよろしく。リィ。あとそれからね、テイルのことを下僕なんて呼び方しないでくれないかしら」

 このレイラのお願いには、リィは心底嫌そうな顔をした。

「えーなんでですか。だってこいつ馬あわないんですもん」

「それはこっちのセリフだ」

 リィの不満たらたらな態度に、テイルは半眼で突っ込んだ。レイラは気にした風もなく、もう一度強くお願いした。

「人を下僕なんて呼び方をするのは失礼なの。それに、テイルは私の恩人なの。だから、ちゃんと名前で呼んで」

 リィはむむむと渋っていたが、最終的には「はい、わかりました」とそのことを了承した。

「てことで、ティルもよろしく」

 テイルに向き直ってぶっきらぼうに放つ言葉には友好関係を築こうという気が全くさらさら感じられないのだが、一応テイルも引きつった顔で応えておく。

「こちらこそどーぞよろしく、リィ」

 完全に棒読みになったが気にしない。二人の間にバチバチと火花が見えて、レイラはひとつため息を吐いた。しかし、いい加減話を進めないとどうにもならない。

「ねえリィ。少し聞いてもいいかしら」

「はいはーい。何? レイラ」

 レイラは落ち着いて来た頭で二人が喧嘩している間に整理しておいた聞きたいことを順番にリィに質問し始めた。

「リィはこの洞窟の中のことについて、詳しい?」

「んー全くわからないわけじゃないけど。あたし、前のマスターから離れてここで数年寝てたから、その時から変わってるってこともあるし、ちゃんと調べる必要はあるかも」

「前のマスターに数年って―お前新人じゃないのか?」

「誰がいつそんなこと言ったのよ。見る目なーい」

 リィの馬鹿にした口調に、テイルの目が据わる。

「ほーお? さっきの話だと修行すると人に近づくんじゃなかったっけ? 随分小さいから新人だと思ったんだが、使いものにならないってことなのか?」

 テイルの返しにリィもむっとして角を立てる。

「あぁあら、姿ってのは時と場合によるもんよ? 今は小さい方が都合がいいから小さい姿になってるだけかもしれないのに、浅はかな考えねー。レイラはあたしの十一人目くらいのマスターよ! あんたよりずーっと長生きなんだからあたしはっ!」

「十一人目っ!?」

「まあ言っておくと、時と経験って比例しないのよね。元々、妖精は長寿だから、十一人じゃ少ないくらいだし。人間みたいにすぐにあれこれ上達しないもんなのよ。だから次馬鹿にしたら速攻ぶっ飛ばす」

 リィが淡々としかし本気の目でテイルに説明すると、テイルは「わかりました……」と小さな声で謝罪した。

「二人とも、終わった?」

 二人の言い合いが終わるのをご丁寧に待っていたのか、レイラが再び口を開いた。

「はーい! バカティルの相手は終わりましたー」

 テイルが小さく「おい」とつっこんだが、それ以上言うと話が進まないと考えたのかそれ以上は口を真横一文字に結んで黙っている。

「で、洞窟の話だっけ? 調べるには少し時間かかるけど、それでも大丈夫?」

「構わないわ。何もわからないよりはずっといいもの。お願いしてもいいかしら?」

「もっちろん! それじゃあ、ちょっと待っててね」

 リィはそう言うとすっと両手を胸の前で合わせて祈るような姿勢を取る。二人が何事かとその様子を見つめていると、突然強い風が二人を通り抜けて洞窟の奥へと吹き抜けていった。

「今風を送ったから、も少ししたら様子がわかるわ……って、二人ともどしたの?」

 リィが姿勢を解くと、今の風でよろけたレイラが尻もちをついていて、テイルは壁にしがみついていた。リィは特に何もなかったようで逆に二人がそんな状態になっていることが不思議な様子である。

「な、なに今の風」

「レイラさん、大丈夫?」

 テイルがレイラに手を差し出した。レイラは「ありがとう」と言ってその手を取って立ち上がった。

「どっか怪我したとことかは?」

 レイラは服の汚れを払いながら見てみるが、特にないように見える。最後に手のひらを返して見ると、手をついた部分が擦りむけていた。見ていたテイルもそれに気づいて、彼女の手のひらを取った。

「このくらい別に」

「きれいな手に傷なんてつけておけないだろ」

 テイルは手持ちの水で傷口を洗うと、そっとそこを片手で覆う。すぅ、と彼の額がほのかに輝き出す。

 側でその様子を傍観していたリィの目が大きく見開かれた。

「ティル……あんた……」

「ん?」

 テイルは目だけで一瞬リィを見る。

「まさか、あたしと同じ妖精っ!?」

「んなわけあるかっ!」

 思わず治療を中断してきっぱりと否定した。「ああもう」とかぶつくさ言いながら、もう一度力を発動させる。

「リィ、彼も妖精を知らなかったのよ。そんな彼が妖精ってことは、ないんじゃないかしら」

「でもでもだって! それ魔法じゃないの? あたし達と同じ」

「まほう?」

 初耳なのか、レイラは小首を傾げている。リィは「んー」と小さく唸ってから説明を始めた。

「例えば、そこにある小さな花」

 リィが指さしたのは、彼女が最初寝ていたあの花である。まだそこで発光しており、あたりを照らし続けている。

「あれ、あたしの寝具なんだけど魔法を使って出してるの。植物の枯れる流れをちょっと堰き止めてあの状態を保っていて、光の粒子を少し操ってあそこから発光するようにしているの」

 話についてこれているか確認するために、リィはそこで一度切ってレイラの顔を覗きこむ。

「なんとなくは、まあ」

「光の明るさは少し調整すればこの通り」

 リィがそう言うと花が纏う光が少し強くなったかと思うと、すぐに弱くなる。

「こうやって自然を生かし、保つ流れに介入して操作できる力を魔法って言うの。妖精はその流れの中から生まれてその流れの中に消えていく生き物だから、流れを見て魔法を扱うことができるのよ」

 リィの説明に、レイラはわかったようなよくわからないようなそんな気分になった。

「んーとりあえず、自然法則を捻じ曲げた現象を引き起こせるって理解でいいのかしら?」

「外れてはいないからそれでいいかなー。でも魔法じゃないってことは、人間も進化したのねぇ」

「それも違うと思うけど……」

 レイラは困った顔でそっと否定しておいた。少なくともこういう力を仕える人間は彼以外見たことない。

「はい、終わり」

 テイルの声がして、手を掴む力が緩くなった。レイラはまじまじと自分の手のひらを見るが、やはり綺麗に傷はなくなっていた。

「ほえー。やっぱり魔法っぽいけどなー。こんな綺麗にこの短時間で治しちゃうなんて」

 リィも彼女の傷跡を見て感心しているようだった。

「ねえリィ。この力に心当たりってないのかしら」

 レイラは試しになにか知っていないか聞いてみる。魔法と勘違いしているようだったので違う答えはあまり期待できそうにはなかったが、決めつけて確認しないよりはマシである。

「さっきも言ったけど、あたしの目から見ると魔法に見えるのよね。でも人間って普通魔法は使えないの。自然の流れから独立した存在だから」

「それじゃあ、リィにも判断がつかないってこと?」

「そうねぇ。あたしの知識じゃちょっとわかんないかも」

「案外役に立たないんだな、お前」

 レイラの横にいたリィの姿が一瞬でテイルの目の前まで移動した。

「ちょおっとティルくーん? 今なんて言ったの?」

 文字通り目と鼻の先でリィが甲高い声にドスを利かせているのを、テイルの顔が「めんどくさい」と言いたそうに見ている。

「いや、オレに偉そうな態度取ってる割には洞窟の中知らないし、力のことも知らないって言うし。つい思わず役立たないな~とか思いました」

「物知らずなあんたよりはずーっと役に立つわよ! 見てなさい! もうそろそろ」

 と、ちょうどタイミングよく風が再び洞窟の奥から吹いてきた。

 今度はレイラが倒れないように風が収まるまでテイルが支えて事なきを得る。その風は不思議なことにその場に渦巻くとリィの方に収束していった。

 リィはしきりに何か頷いていて、何かを理解したのか「よしっ」と声を上げるとレイラの前に移動した。

「レイラはどこからこの洞窟に入ってきたの?」

 リィの質問に、レイラは自分たちが来た方向を指す。

「ふむふむ。で、レイラはどこに行きたいの?」

「え? えっと、できれば別の出口に出られればいいのだけど」

 そこでリィは先ほどテイルが口走っていた言葉を思い出した。

「ああそういえば、レイラとティルはベルマークシティに行きたいんだっけ。そっち方面に出る出口あるけど」

 間。

 『ええっ!?』

「行きたいなら案内するよ? 幸い人間が通れないような道じゃないし」

 くるくると答えを待つようにリィは空を舞う。

「お前、洞窟の内部わかんないんじゃ?」

「今、風の精霊にお願いして見てきてもらったの。あ、言っとくと精霊は妖精よりもずっと小さいそれこそ自然の法則そのものみたい存在だけど、あたし達妖精の仲間みたいなものだから」

「それで、把握したと?」

 リィは「そゆこと」とテイルの質問を肯定した。

「リィ、本当にベルマークの方に抜ける出口なの?」

「うんそうよ♪ そこの出口まで行くとベルマークの裏山の方に出るって。ちょっと道のり長いけど」

「リィ、お願い。案内して」

 レイラの真剣な目に、リィはにこっと笑い、嬉しそうにレイラの周りをくるくる回り始める。

「もっちろん! お願いされなくたって、レイラのためなら喜んで♪」

「ありがとう、リィ!」

 ホッとしたようにレイラの表情が柔らかくなる。

「それじゃあ早速」

「ちょっと待った」

 行きかけたリィを止めたのはテイルだった。二人がテイルの方を見る。

「なによーバカティル」

 すっと彼の前に移動するが、テイルはリィを無視してレイラに話しかけた。

「レイラさん、少し休んでかないか。ずっと立ちっぱなしだし」

 テイルの提案にレイラは戸惑った。

 確かにずっと山道を来たので多少疲れてはいるが、彼女としては早く家に帰りたい気持ちが勝っているのだろう。

「リィ、その出口までの道のりって長いんだろう?」

「まー日が出てる時間には出れると思うけど」

 最初に無視されたことは不服だったが、不機嫌ながらもリィはちゃかさずにテイルの質問に答えた。

「あ、あと、そのマホウとかってので外の様子ってわかるのか?」

「当っ然。今もさっきの精霊達に協力してもらって洞窟内の状況は把握してるわ」

 そこまで聞いて、テイルはレイラの方をもう一度見た。目が「どうする?」と聞いている。

―わかったわ。途中で疲れてしまっては元も子もないし、休める時に休んでおきましょう」

 そう答えてから、レイラはリィの方を見た。

「リィ、申し訳ないのだけど、洞窟内に黒服の男達が入ってきたら教えてもらえる?」

「黒服の男ね。リョーカイ!」

 リィが笑顔で請け負うと「ついでに」と軽く右手を振った。光の粒子が何かを形作っていき、光が消えた後には座りやすそうな葉が引かれた岩ができあがっていた。

「地べたに座るよりはずっといいでしょ、レイラ。あたしが消さない限りずっとあり続けるから安心して♪」

 リィの心遣いにレイラはお礼を言ってそこに腰を下ろした。思った以上に足に疲れが来ていたようで、座った瞬間に疲労感が湧いて出てきた。

「オレの分は?」

「あんたは地べたでいいでしょ? バカティル」

「おーまーえーなー」

 この二人の言い合いだけはどうにかならないだろうかと、レイラは先ほどとは別の意味で疲労感を覚え、ため息をついた。

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