五、エピローグ - 1

天空の喪失 エピローグ

エピローグ

 次の日の朝、昨晩の夕食と同じように朝食を頂くと、テイルはまず電話を借りた。かける先は働かせて頂いているパン屋アテルネだ。

『はい、パン屋アテルネです』

「おはようございます、おばさん。テイルです」

 受話器の向こうから「あらあら」と驚く声が聞こえてくる。

『あんた、昨日はどうしたんだい。勝手に休んで』

「いや、ちょっと色々あって今ベルマークシティまで来ちゃってるんです。連絡できなくてすみません」

『ベルマーク!? なんだってまたそんなとこまで。あんたお金はどうしたんだい』

「一昨日泊まった彼女、覚えてます? 彼女の家に出していただきました……」

 電話向こうのアテルネの奥さんの声は呆れ返っている。その声を聞いていると「ああ、オレ男なのになんか情けない」と思えてくるのだから不思議だ。

『今もその子のうちにいるのかい? ご迷惑かけてないかい?』

「ええ。それで、ですね。彼女のお父さんの方が慈善事業で―」

 と彼は昨日された話を奥さんに向かって切り出した。話を聞いた奥さんの第一声は、

『あら、良かったじゃない』

 だった。

『あんたせっかくお金出してもらえるっていうんだから、恥をかかせないように頑張るんだよ。それで、どこの学校に?』

「それなんですけど、もし良ければ彼女と同じ学校にって話になってまして。下宿とかはさせて貰えるみたいです。それで、もし長いお休みをいただくか、一時的にやめても良ければって思って電話しました」

『あら、あんた金持ちの行く学校に行くの。こりゃ帰ってきた時が楽しみだね』

 全く悩む風も困った風もなく、奥さんはあっさりとした態度だ。

「いいん、ですか?」

『いいも何も、行けばいいじゃない。戻ってきたかったらいつでも戻ってくるといいよ。いつでも雇ってあげるから』

「オレの仕事の分までやって体壊したりしないでくださいよ!?」

『まだ、あんたに心配されるような歳じゃないよ! 全く。旦那にはあたしから話しとくから、頑張ってきな!』

 電話越しに背中を押されて、体の奥から喜びが沸き上がってくる。

「ありがとうございます! 今度おみやげ買って顔出しに行きますから!」

 お礼を述べ、家のことなどについてやりとりをしてから彼は受話器を置き、ミズィアム卿に会いに行った。

 すぐに中に通される。

「さて、どうするか決まったのかな?」

 窓辺に立って煙管をふかす姿は実に様になっている。テイルはひとつ頷いて、昨晩の返事を口にした。

「オレも、レイラさんと同じ学校に通います。暫くの間、お世話になってもいいでしょうか」

 返事を聞いたミズィアム卿は破顔する。

「勿論だとも。妻も娘も喜ぶ。さて、それでは早速手続きをこちらでしてもらおう」

「はい!」

 テイルは元気に返事をすると、ミズィアム卿に促されて席に着く。机の上には何枚かの書類とペンが用意されていて、向かいに腰掛けたミズィアム卿が彼に一つ一つ説明をしていく。その説明を真剣に聞く彼の顔に、もう迷いはなかった。

◇ ◆ ◇

 少女を逃したとの報告を受けたカルザスは、その晩はひどく荒れていた。が次の日、朝日を窓の外に見ていた彼はあることに気づく。

「結界が……消えた?」

 彼女に悪意を向けるものを阻む、ベルマークシティを取り巻く結界が。

 カルザスはニタリと口の端を吊り上げた。

「ならば、今こそ好機というもの」

 あの結界があったから、彼は今までそこにあるのを知っていながら彼女に手を出すことができなかった。だが、今はもう違う。その結界はどういうわけか消え失せた。

「今こそ迎えに行きましょう」

 いざ、ベルマークへ

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